クラーク=アシュトン=スミス(以下スミス)はラブクラフトの取り巻きの中では圧倒的に文章が美しいです。
ラブクラフトとの比較
ろくに文学の教育を受けていない僕が言うのもなんですが、ほれぼれするような表現技巧を持った作家だと思います。
そのツヤやかさはラブクラフトには無い魅力です。
スミスの小説の特徴は、文章自体が非常に魅力的であることと、少しリアリティはあるものの、ドラクエやFFくらいの距離にあるファンタジー世界を構築するところです。
ラブクラフトはあくまで現実世界を舞台にして、そこに異世界の侵入というか、亀裂を入れる感じです。
構成は神がかってますが文章自体に魅力があるかというと、結構微妙なところな気がします。
スミスも地球を舞台にはするのですが、とてつもない過去や未来という設定が多いと思います。
なので読んでる最中は作品世界に没頭してどきどきさせられても読み終わったら一安心できます(^-^)
ラブクラフトは読み終わった後も我が身を省みさせられたり自然や宇宙について疑問が膨らんだりさせられて、一安心とはなかなかいきません(^-^;
スミスはストーリーとしての面白さ、完結性も追求していますが、ラブクラフトの場合根底にある不安・孤独をいかに作品世界に投影するかということに重きが置かれている感じです。
なんとなくスミスプッシュな感じになってきたので、ラブクラフトをちょこっと持ち上げておくと、スミス作品ではあまり無いと思われる人間についての深く鋭い洞察みたいな極地まで時に辿り着いてしまうのがラブクラフトだと思います。
スミスはそうした洞察を示すというよりは、読んでる間トリップできるかどうかを重視していたように思います。
ゾティーク幻妖怪異譚
そんなスミスの短編集で入手しやすいのが『ゾティーク幻妖怪異譚』です。
地球最後(ということは人類の最後が描かれるかも)の大陸ゾティークが舞台で、機械文明ではなく魔法文明の世界となっています。
特に良かったものをレビュります!
ゾティーク☆☆
舞台となる地球最期の大陸ゾティークについて歌われる詩です。
未来と言うよりは超古代な空気が漂っていてドキドキしつつ、次のページへ!
降霊術師の帝国☆☆☆☆☆
いきなり来ました、とてつもない傑作です。絶品です!
僕は真クリのユーモア溢れるスミス作品に感動してこの短編集を手にしたのですが、この降霊術師の帝国を読んで彼に対する期待が良い意味で裏切られました。
残虐な降霊術師二人が、降霊術を使って帝国を築き悪行の限りを尽くすのですが、それを描いていく緊張感がスゴイです。
そして物語の結末も、まるで古典文学を読んでいるかのような冷厳さ。
5つ星評価以外ありえません。
拷問者の島☆☆☆☆☆
あんまり読みたくないタイトル笑
銀死病(ものすごいネーミングセンス!)によって壊滅的な打撃を受けた国から命からがら逃げ出した王子が部下たちとともに辿り着いたのが、拷問マニアの変態どもが集う島だったのです。
きっつい拷問描写に吐き気を催しましたが、人間に与えうる絶望の探求といった趣があって案外考えさせられる感じです。
ただ、読者もその魔手からは逃れられません・・身も心も痛むことでしょう。
僕はこのどぎつい残虐性に5つ星を付けたわけではありません。
この作品は結末がまたとてつもないのです。
ネタバレにならないように一言言うと、所詮人間ははかない生き物に過ぎないってところでしょうか。
この作品に関しては色々と考えたいことが出てくると思いますが、読後感は意外なほど悪くないですよ。
死体安置所の神☆☆☆☆☆
ん〜ん、モルディッギアン!
若い夫婦が主人公です。ここまでの流れから、はっきり言ってこんな無力そうな主人公は不安でなりません。
実際冒頭から大変な目に遭ってしまいます。
旅先で辿り着いた国で、気絶した妻が死んだものと勘違いされて死の神モルディッギアンに捧げられてしまうのです。
そこで夫が、死力を尽くして妻を救出しようとします。
絶対無理だろ・・・っていう嫌な予感と共に読んでいくと・・・
息をつく間もない逸品です。
モルディッギアン!(言いたいだけ(^-^;)
暗黒の魔像☆☆☆☆☆
またしても5つ星www
しかも、同じ5でもこれは前半の山場と言って良いくらいの強烈な作品です。
ここでは無力な一般人ではなく、道を究めた魔術師が主人公であり、その魔術師が復讐を遂げるためにある暴君を貶めるのですが、その際に暗黒魔界の神と対立することになるのです。
スミスの豪華絢爛な文章が魔界の頂点二人の残酷極まりない争いをこれでもかというくらいに彩ります。
巻末にはこの作品にスミスが添えたイラストが載ってますが、こちらは結構がっかりです。
もっと荘厳・豪奢なシーンをCGかなにかで再現してもらいたいところです。
エウウォラン王の航海☆☆☆☆☆
すさまじい傑作の直後、息休めに小品でも来るのかと思いきや、まさかの比較的長めの大作です。
しかも、かなり面白い冒険譚。
頭の弱い王さまが代々伝わる王家の家宝を奪われてしまいます。
それで、その家宝を取り戻すために大軍勢をつれて航海に出るのです。
が、ゾティークでは過酷な試練が待ち受けているわけです。
次々に死んでいく部下たち、襲いかかるのはまさしく魑魅魍魎。
拷問島よりは若干肩の力を抜いて読める、でも手に汗握る名作です。
クセートゥラ☆☆☆☆
羊飼いが禁断の果実?を口にしたがために出会う不思議の数々といった趣。
果実をほおばる描写がこの上なくジューシーで見物です!
地上の秘境を旅するムードも味わえておいしい作品だと思います。
最後の象形文字☆☆☆☆
ストーリー的には結構謎で真意は読み取りにくいのですが、冒険ものとしてはかなり洗練されていると思います。
占星術師が運命に導かれて異世界を旅するのですが…この異世界が、とてつもなくおぞましくて震えます。
いつか夢で見たような、不思議な光景が広がり、そこにスミスの美麗な文体がこれでもかってくらいに炸裂する名作です。
ナートの降霊術☆☆☆
これも怖いです。
船が脱出不可能な海流に乗ってしまい、降霊術で有名なナートに向かってしまうところから始まるのですが、そこからして絶望感満載です。
微かな希望を胸に主人公は奮闘するのですが・・
スミスらしい、超暗いけど一応ハッピーエンドです的なエンディング。
プトゥームの黒人の大修道院長☆☆☆☆☆
他の作品と似ているようでいて、だいぶ色合いの異なる作品です。
そして超絶に面白い。
忠誠心の深い有能な戦士二人が、王さまのために遊牧民かなにかの美女を奪いにいくところから物語は始まり割と順調に美女を連れ出すことには成功するのですが・・
謎の嵐に誘われて半ば強制的に不思議な修道院にたどり着きます。
そして!というわけなのですが、この作品が他と異なるのは、主人公達が運命に流されるだけの無力な個人というわけではなく、自立した現代的な個人として描かれているところです。
エンディングは本書の中でも特にお見事というか、笑いました。
蟹の支配者☆☆☆☆
変なタイトルですよね(^-^;
蟹を使って気持ち悪い描写をしまくってくれます。
この作品の面白いところは、なんと言っても魔法対決です。
また、絶海の孤島に旅している気分を味わえるところも良かったです。
モルテュッラ☆☆☆
不思議度ではナンバーワンのモルテュッラがラストの締めを飾ります。
時代的に他の作品よりもだいぶ下ったゾティークらしく、「地球最後」な空気が作品全体に漂っています。
まとめ
異世界を冒険する気分を味わいたい方、美文に酔いたい方には絶賛おすすめします!
今回超絶面白かったのはすべて紹介しつくしたと思いますが、紹介していないものの中にも結構行けるのはまだまだ残っています。
是非一緒に酔いましょうや!!