ラブクラフトの最高傑作の1つ『アウトサイダー』収録の全集第三巻のダイジェストレビューです。
ラブクラフトの誤算
ラブクラフトはレビューしにくいやっかいなところがありました。例のクトゥルフという背景を知った上で読むと作者の意図と反するということです。
この事情について大変よくまとまった素晴らしい記事を見つけたので紹介します。 まどろっこしい僕の説明より簡潔かつ面白くてクオリティが高い!
ラヴクラフト最大の誤算
クトゥルフを巡るラブクラフト作品は、誰だかよく分からない作家が妄想で書いたくだらない三文小説として読んだときに最強の威力を発揮するという構造です。
全集第3巻のトリをつとめる「時間からの影」(日本語タイトルはどことなく不自由な日本語の趣ですが、原題はThe shadow out of timeっていう格好良さです)はまさにそうだと思います。
これを前提知識一切なしに読んだら気が狂っちゃいそうな奇怪さです。
なので、この第三巻に限った話ではないのですが、とりあえずは神話とか忘れましょう笑
ってか、ネタ的にクトゥルフフリークを目指すのであれば、作品を読むよりは解説系のを読めばよろしいかと…
そうではなく、単純に面白い小説をお探しの方に、単純に面白い体験のできる小説を薦めるというのが僕の趣旨です。
今回は、2つの短編をご紹介します。
アウトサイダー
文語調の文体で主人公の独白により構成され、その特質を生かした作りとなっています。
主人公は暗闇で目を覚まし、そこから出ようとします。
歴史を感じさせる古びた作りの建築物の中を登っていって…そうです、どうやら目覚めた場所は地下深くだったようです。
無限に続きそうな暗闇を飛び出すと、そこには…??
他の人のレビューを読むと、オチが読めたと言われることが多いようです。
が、読めようが読めまいが関係ありません。
もうとにかく、味わってください。
注目ポイントは主人公の心境変化と悟りです。
イントロに引用されたキーツの詩、
稚(いわけな)き頃の記憶が、恐怖と悲哀のみしかもたらさぬ者こそ、不幸なるかな。
がどう繋がっていくのか見てみてください。
一言で言うなら、ここにはとてつもない悲しみと孤独が描かれています。
この壮絶な孤独こそ、ラブクラフト小説でしか見られない真骨頂であり、彼を文学史に載せねばならぬ理由だと思います。
ただの不思議な神話なだけでは所詮同人界隈で扱われるだけの作家で終わったでしょうが、えぐる様に深みに突っ込んでしまうのがラブクラフト文学です。
しかもこの『アウトサイダー』はクトゥルフと無関係ですので、なおさら彼の文学の本質に触れるのに格好だと思います。
時間からの影
この作品についてレビュる前に、皆様『フューチャーイズワイルド』はお読みでしょうか?
まだでしたら、是非お読みになってからが良いですよ!
時代は第一次大戦の頃。
20年記憶を失っていた経済学者が主人公です。
彼は記憶をなくしていた期間、夢を見ていて、その夢の意味するところが解きほぐされていくという内容です。
結構うまい展開です。この手のイントロには引き込まれずにはいられない!
夢を持ちだしたら何でも出来るわけですが、そこはラブクラフト。
現実と非現実の壁をしっかり意識しながら、その間すれすれを歩いていきます。そして、いつしか非現実に見えた夢世界がこちらに浸食してくる…
この作品の場合描かれる夢の記憶があまりに具体的で、しかもとってつけたような小話でなくあまりに壮大。
億単位で時代をさかのぼったりしてしまうのです。
太古の世界に文明があったことを臭わせたかと思うと、次のページではその文明が追い出した先行者の存在を伺わせる描写が現れたりするのです。
もう、ホント圧巻の遠大さ。果てしなさすぎて圧倒されてしまうこと請け合いです。
言うまでもなくこの「圧倒されるくらいの果てしなさ」こそ、途方もない未来を語った「フューチャーイズワイルド」に通じるものです。
他のこの手のSFとの決定的違いは、一般のSFにおいて人間は不可思議な世界を一応は把握できるという前提があるのに対し、この作品では人間の知性なんてしゃらくせえちっぽけなもんに過ぎないと思われているところです。
これ、微妙に『アウトサイダー』で描かれていた人間の孤独と相通ずる部分があるのが面白いところで読みどころでもあると思います。
人間は個人として孤独であるばかりか、種としても孤独。
みたいな感じです。
そんなわけで、是非とも味わってくださいよこの「ついていけないくらいの遙かなる巨大さ」を!
まず他じゃ味わえませんから(^-^)