ラブクラフト全集第3巻のレビューに先駆けて、是非とも紹介したい本があります。
人類滅亡後
その名も「フューチャーイズワイルド(the future is wild)」です。
奇妙な生物の表紙絵に見覚えのある方もいらっしゃることと思います。
この本は本物の学者たちが真剣に考えた、地球の未来像です。
それもドラえもんみたいな想像可能な未来ではなく、もっとずっとずっと先の話です。
第一章でこれまでの地球を概観します。実はこの章がもっとも幅広い時代を扱うのですが(^-^;
なんせ最初の生命誕生から今まで、実に40億年もの時間が経過しているからです。
これがどれだけ途方もない時間の流れか、簡単にイメージするためによく使われるのが時間の流れを長さに置き換える方法です。
地球史を教室に例えると
一般的な中学校の教室の前から後ろまでの縦幅の長さを、地球の歴史(地球ができてから今現在まで)の長さ(年月)に例えます。
ヒトの歴史はこのうちごく1センチだけです。
文明が生まれてからはどれくらいなのでしょうか?
なんと、0.1ミリにすら満たないのです。
恐竜ですら、地球にいたのは数十センチ程度です。
齧歯類 イズ ワイルド
フューチャーイズワイルドは第二章で、一気に500万年後に行きます。
さきほどのテープで言うと1センチ分だけ進むのです。
人類はとっくの昔に氷河期で消え去ってますが、例えばほ乳類でいうと齧歯類の一種が生き残って、極寒の地球を徘徊している様子がCGで描かれてます。
僕も理系の端くれですので、今現在齧歯類がいかに文明によってその生を利用され虐げられているかについてそれなりに知っているつもりです。
でもそういう議論が所詮人間レベルに過ぎないというか、自然はもっと壮大だと思わされます。
彼らは今、人間に利用され搾取されていますが、環境への適応力は人間よりあるのかもしれません。
彼らの繁殖のペースは人間の比ではなく、ほとんどが死んでも一部は残る、ということを繰り返して、生き抜くことができそうです。
ほんの一時、人間が文明を築いてそれが高度化したときに散々搾取されまくりましたが、それもほんの一瞬の出来事であったかのように、悠々と彼らは大自然のなかで生き続ける。
そんな姿に僕には見えました。
この果てしない生きる力!
だからといって、今の動物の利用について考える必要が無いわけではありませんよ、もちろん。
1億年先への旅で見えるもの
さて、本の第3章では、さらに時代が進みます。一億年後です。
紙テープで言うと20センチくらい進みます。
生命は引き続き環境の変化に対応して変化をし続けます。
さらに多様な変化を見せる生き物たちをみて、ふと気づいたことがありました。
究極の生命体とは何か。
それは進化の系統樹の最先端に今いる、ほ乳類と昆虫のことではないし、1億年先に現れたどれかの種でもありません。
究極なのは、あらゆる変化に対応してそのシステムを40億年に渡り継続させ続けているRNA、DNA、そしてタンパク質という分子たちのことに違いない。
これが僕の気づきです。
明確に語られるわけではありませんが、見た目や機能の変化が目立つ一方で分子レベルでは恐らく今ある機構とほとんど変わっていないと思われます。
遺伝子にコードされた蛋白質をせっせと作って、自己を複製していくっていうシステムに変わりはないみたいなのです。
だから彼らの入れ物に過ぎない我ら動植物、細菌等々の生き物は生まれては消えていく一瞬一瞬の表情みたいなものでしかないのかもしれません。
2億年後そしてラブクラフトへ
さて、本はさらに二億年後まで進むのですが・・・そろそろ本題に戻ろうと思います。
今回この本を紹介したのは、生命の奥深さについてお伝えしたかったからではありません。
ともすればさらっと受け流すことも出来る、数億年というスケール。
それが、せいぜい100年くらいしか生きられない人間にとって、どれほどたどり着けない、想像を絶するものか。
その実感が、この本を読むことで痛いほど味わえるはずです。
生物も変われば地形も変わり、僕たちの慣れ親しんだ世界地図もほんのいっときのものであり、地球って実は変容するんだっていうのも、日常感覚からはかけ離れていてこういう本でも読まないと考えないことだと思います。
そして、この億単位の遠大さに多少なりとも実感を持った状態で読むべき作品がラブクラフトにはあるのです。
全集第三巻に収められた、『時間からの影』です。
本来作品は作品だけで楽しむべきなのかもしれませんが、他の誰もが考えもしなかった独自の世界観を作ってしまったラブクラフト・ワールド、せっかくだから思いっきり味わいたくないですか?w
次回、全集第3巻レビューをお楽しみに!