最近石川淳の中編集「紫苑物語」を購入して激ハマり中です。今回はタイトル作「紫苑物語」の紹介です。
心の師匠・加藤周一推薦
僕はニート時代に日本史上最高の知識人の一人、加藤周一の講演に行ったことがあります。
「日本文学史序説」という本の補講発行記念か何かのイベントでした。
高校現代文でしょっちゅう出てくる加藤周一です。
「ドラマチックな文体が魅力の評論家」くらいの認識だったのですが、NHKの終戦記念日特番かなにかで、第二次世界大戦に関して「死ぬべきで無かった友達が死んでしまった」ことを理由に戦争に反対するという、知識人っぽくない熱い男前っぷりを見て以来心酔しています。
彼は日本文学史の概説を書いているのに出身は東大医学部という超人っぷりがまた魅力的です。
そんな加藤周一が、講演会で文章が美しいと思う作家は誰か、みたいなことを聴衆に聴かれて挙げていたのが、今回紹介する石川淳です。
が、なかなか読み出すきっかけがなくて今に至りました。
加藤周一も亡くなってしまい、なんだか切ない思いも漂う中、Kindleストアで電子書籍化されていたので思い出したが吉日、即座に購入しました。
Viva la ひらがな
手に取ったのはタイトルが格好良かった「紫苑物語」です。
三編の作品が収められていて、一番最初にタイトル作が載っています。
で、これがまたいきなりの超傑作でした。
美しい文章を書ける作家が、その美しさをこれでもかってくらいに際立たせるストーリーを創造して挑んだスリリングな作品です。
読みながらなんどもほっぺが落ちるというか、心の中で文章を読み上げていると本当に口が快感に満たされちゃうみたいな、素晴らしい文体でした。
せっかくなので地味ではありますが魅惑の箇所を引用してその片鱗をお見せします。
燃える落日のもとに、地はひろびろと暢びて、水きよく森青く、田畑はみのりの秋のけしきゆたかに、花あり、果実あり・・・(略)
単なる風景描写なのですが、壮大であり生き生きとしています。
ちなみにこれは書いてあったまんまを載せてます。
ご覧の様に、意図的と思われるひらがな(「ひろびろ」「きよく」「みのり」「けしき」「ゆたか」)が連発しています。
このようなひらがな攻勢は全編にわたって見られ、作品の印象を特徴付けています。
謎の美少女・千草
特に際立つのが、中盤以降に登場する美少女”千草”の言葉遣いです。
文章自体がこれでもかってくらい美麗な中でもひときわ輝きを放っています。
ネタバレに注意しつつ、2つ紹介します。
「わたくしをそれほどむごいこころの女とおぼされてか。」
「いいえ。なおさらおしたわしく存じあげます。わたくしもどうやらひとの世のあわれが身にしみてきたようでございます。」
か、かっこいい…そのうえで可愛い…これぞミラクル。
交錯するいくつもの対立軸
素晴らしいのは文体だけではありません。
千草を筆頭に、登場人物が魅力的です。
例えば山で「ほとけ」を彫っているという平太というワイルドな感じの男性キャラは女子に愛されそうな感じです。
また弓麻呂という、主人公の師匠は弓を極めた悪魔のような人物として描かれていて怪しい魅力を放っています。
主人公宗頼は感情移入のしにくい暴君ですが、それでいてピュアなところがあって、魔の道を究めていく姿には神々しさすら漂います。
そしてファンタジーの味付けは好みが分かれるかもしれませんが、芸術の神髄を語ろうとしているようでもあり、面白いです。
終盤には怒濤の展開が待っていて、若干置いてけぼり気味になるかもしれませんが、神話みたいな妙な説得力があります。
中身が文体に負けている、ということは全然ないです。
まだまだ続くよ紫苑物語レビュー!
そんなわけで、買って損は無い・・・どころか大量にお釣りが帰ってくる「紫苑物語」は3編全作紹介したいと思います!
次回は2番目に登場する「八幡縁起」です。
これがまた、超展開の連発をかますとんでもない作品ですごいんですよ(*´∀`*)