ある日突然、文明社会から隔絶した見知らぬところに置き去りにされて、今を生きるだけでも精一杯の状況に陥ってしまう…そんなサバイバルゲームものって、面白いですよね(^-^)
物語性だけで突っ走る、読ませる快作「クリムゾンの迷宮」
「天使の囀り」に物足りなさを感じたものの、技量に関しては申し分のない魅力を感じたためにKindleのお勧めに従って購入したのが、同じ貴志祐介作の「クリムゾンの迷宮」!
今度の舞台は火星…を模した、オーストラリアのどこか。
地形的に迷宮と化した渓谷で突然はじまるサバイバル。
わりとよくある設定です。
それでいて何か新しさがあるかというと…むしろ、登場キャラにさして魅力がなくて殺伐としていて、それがかえってリアリティになっているのかな、ということくらいしか思いつきません。
恐らくはひたすら読ませる作者の腕力による魅力が大きいと思います。
なのでページを繰る手が止まらずに一気読みしてしまうこと請け合いです。
最終的にはこのサバイバルの目的や裏設定は明かされずに幕を閉じてしまうために不満が残るといえば残ります。
もっとも、そういう説明を省いてサバイバルゲームの描写に徹した点はありがたいのも事実。
緊迫したサバイバルを同時体験として楽しむことがこの小説の魅力だと思うので、秘密は秘密のままで特に問題ないかと思いました。
残念なことに登場人物にさして魅力がないのも、そのおかげで生きるか死ぬかのサバイバルに集中できるというメリットがあったように思われます。
この手のサバイバルには、ヒロインとライバルが大抵はいるものだと思います。
一応この小説にも、ヒロインに該当する女性とライバルに該当する男性がいますが…
どっちも中途半端だと思いました(^-^;
特にヒロインは暗い背景があるものの、人間性をほとんど見せないというか隠すためいまいち好きになれません。
主人公と一緒に行動することになるのですが、ちらりとかわいいところを見せてくれる、なんてことが全然なくて意外でした。
貴志祐介さんは、魅力的な女性を描くのはそんなに得意ではないのかもしれません(^-^;
そしてライバルというか、襲いかかってくる敵キャラに相当する男性は、あくまで元々一般人の人で邪悪さに欠けます。
怖いっちゃ怖いんですけど、本能が拒否反応を示してしまうような怪物ではありません。
この点で、恐怖の探求として傑作だった「黒い家」にはこの作品も遠く及びません。
でもまあ、そもそものテーマが恐怖というよりサバイバルゲームを楽しむ体験だと思われるので、それは良いのです。
というわけで読中は作品世界にどっぷり浸れて楽しいものの、読後感は微妙、というのが「クリムゾンの迷宮」です。
エンタメとしては十分読み甲斐のある作品です。
最後にカタルシスあり「ギャルナフカの迷宮」
同じくサバイバルものとして僕がお薦めしたいが、小川一水の「ギャルナフカの迷宮」です。
舞台が少々異なるものの、いきなり文明社会から自然の中に放りだされる点はクリムゾンと全く同じです。
天然の迷宮を彷徨うクリムゾンと違うのは、こちらの迷宮は人工物であり地図が存在する点です。
また、長編のクリムゾンと違って短編なのでわりとすぐ物語は終わってしまいます。
こちらではサバイバルゲームを同時体験するというのは途中まで。
その先はちょっと様相が異なってきます。
これがなかなか面白くて作者のチャレンジ的な試みが見られて僕は楽しめました。
テーマは「人間の社会性」についてでしょう。アリストテレスのゾーン・ポリティコン(人間は社会的動物)を思わせる見事なテーマ展開です。
これって本質的に言えばサバイバルゲームの否定に繋がるもので…
いえ、詳細はネタバレしたくないので、お読みになっていただければと思います。
さて、そんな風にして途中からサバイバル感は薄れてしまいますし、若干やり過ぎなくらいの展開が最後には待っています。
強引だけどちゃんとカタルシスがある、これはクリムゾンには無い要素です。
というわけで読中のどっぷりハマれる感はクリムゾンより劣るものの、設定を土台にした作者の人間研究を味わうことができる上に最後には解放感があるのが「ギャルナフカ」です。
どっちにも一長一短あるものの、読み手を引きつける魅力は確かなのでお勧めです!