夢野久作のタイトルって変わってて面白いですよね!
なんちゃら地獄
夢野久作のウィキを見ていると、タイトルがとても個性的・・というか、どっかで見たことのあるような名前もちらほら。
間違いなく近年のクリエイターにもだいぶリスペクトされている作家ですね。
あんまり個性的なタイトルが並んでるんで、興味がわいて一つ読んでみました。 そしてこれがまた傑作でした。
タイトルは「瓶詰地獄」。なんたら地獄というタイトルは結構連発してて、夢野久作のお気に入りみたいです。
胸震わせる第一の書簡
この作品は4つの書簡により構成されています。
最初に提示される書簡は、シチュエーションを説明することになる公文書です。
よく分からない手紙の入ったビール瓶が三つ見つかったことが語られます。
ゾクゾクするとともに、若干ビクビクもさせるうまい設定。
こんなハイセンスな導入、ネットで評判の洒落怖でもなかなか読めないですよ!(笑)
楽園
次にそのビール瓶に入っていた三つの手紙が順番に示されます。
手紙は、三枚とも船が難破して命からがら無人島にたどり着いた兄妹が、記録をつづったような形式になっています。
タイトルと第一の書簡で恐怖を煽ってますから、恐らく酷い出来事があったことが記録されているのだろう、と恐る恐る読むことになると思います。
ただ、いわゆる典型的なグロテスク・ホラーな要素は出てきません。
無人島での暮らしは恐ろしいことがたくさん待ち受けていそうですが、この島には肉食獣や毒草のたぐいは一切存在せず、むしろ食物と陽光と水に恵まれた楽園であることが語られます。
そんな楽園で、いったいどんな地獄がありえるというのでしょうか。
兄と妹と聖書
サバイバルを開始した二人の手元には聖書がありました。
二人は無人島にたどり着いたときまだ10歳前後。その後、島の果実や魚などを食べながら、聖書とともに育ちます。
親から離されて、たった二人で懸命に生きようとする子供たちにとって聖書の教えは心の支えになってくくれました。
地獄開宴
ところが、ちょうど思春期を迎える頃。
兄は妹の第二次性徴を感じ取って、自分の中でも男性の部分が目覚めつつあることを自覚します。
これが苦悩のもととなり、兄は苦しむことになります。
聖書では、近親愛は禁忌だからです。
妹の方も、変調を来していきます。
そう、二人の楽園は思春期の男女と聖書というアンビバレントな価値観の対立によって地獄と化してしまうのです。
書簡の順番
もう一つ、見所なのが3つの手紙が作品中で出てくる順番です。
今回批評の都合で時系列で手紙の内容について説明していきましたが、作中では手紙の登場の順番は時系列とは逆になっています。
まるで遺書のような苦悩の帰結から始まり、苦悩の瞬間、苦悩する前という順に手紙が読まれるのです。
トリッキーですよねえ。
この順番の逆転により、最後に出てくる無垢な手紙が異様な悲しみを湛えているように感じられてくるから不思議です。
宿命のような逃れがたさを、彼らが既に知っていたかのように思えてしまうのは言い過ぎでしょうか…
魔術師久作
夢野久作はこの作品で、時間を支配下に置くことが出来ることを示しました。
創作世界ならではではありますが、魔術のような鮮やかな手口です。
ちなみに、夢野久作は著作権が切れており、青空文庫で読めます。
あんまり説明しすぎるともったいないので、とにかく一度お読みになってみてください。
え?ドグラ・マグラ???
…to be continued.