プラトンは哲学者でありながら文学のセンスもあった、とよく言われるのが超良く分かる、それが『プロタゴラス』。
胸アツの展開力
『プロタゴラス』は、時代を彩る超有名人プロタゴラスとまだまだ若手の頃のソクラテスのガチバトル。
その構造を中澤氏訳の光文社古典新訳文庫の章立てを使って示すと、
プロローグ:バトル直後のソクラテス、バトルを思い出して語りだす
第一章(実質上プロローグその2):ソクラテス、プロタゴラスに心酔する若者ヒポクラテスに熱く(マジでアツい)説教をする
さらにソクラテス「一緒に行ってやるから、プロタゴラスが心酔に値するか見定めようじゃないか」第二章:開戦
第三章:プロタゴラス、ソクラテスを圧倒。
第四章:ソクラテス、プロタゴラスの穴を突くが逆ギレされる。聴衆の評価は二分。
第五章:協議の結果再戦へ
第六章:プロタゴラス、ソクラテスに致命傷を負わす。しかしたまたまその場にいた「師匠」の助けを得て、ソクラテスは情勢をひっくり返す。
第七章:プロタゴラス、ソクラテスの攻撃をかわす・・・がしかし。最後にソクラテスはプロタゴラスに決定打を与え、これで勝負あり。
エピローグ:ソクラテス、自身の決定打により実は自分も倒されてしまっていたことを悟る
この怒濤の展開、ストーリー構成!!!
すごすぎる。
一回死にかけて、そこに「師匠」が現れて(もとからその場にいたのですが)逆襲をしていくところなんてまるでバトルマンガみたい。
おまけにラストには衝撃のどんでん返しまであるっていう。
まさか哲学書を読んでいて手に汗握るような展開に出くわすとは。
思いつく限り最悪の組合せ「詭弁+相対主義」
知名度的にはソクラテス>>プロタゴラスですが、このプロタゴラス、なかなか厄介です。
彼は有名なソフィストということなのですが、ソフィストといえば詭弁を弄することで知られています。
そして、プロタゴラスは特に「人間は万物の尺度」という相対主義を打ち出しているそうです。判断の尺度は人それぞれ、みたいな感じだと思います。
ソフィストお得意の詭弁とプロタゴラスのとる相対主義は、思いつく限り最悪の組合せです。
NGLとキメラアント並みの。
この二つがタッグを組んだとき、僕たちは相手に何も言い返せないばかりか、思考することそのものを無意味化されてしまい相手の言いなりになってしまいます。
プロタゴラスはソクラテスとの対戦においても、お得意の詭弁と相対主義を存分に振り回してソクラテスを苦しめます。
『メノン』の研究で確認したように、ソクラテスは基本的に議論を「普遍」経由で考えようとする傾向がありますが、プロタゴラスからしたらそんなものはありえず、すべては相対的だというのですから、相性は最悪です。
そこでソクラテスが対抗手段として用いるのが、「師匠」直伝の得意技です。
ソクラテスは「師匠」とのタッグにより情勢を取り戻し、最終的には「師匠」抜きで自力でプロタゴラスに決定打を与えます。
というわけで、ソクラテスからすると相性最悪のプロタゴラス相手にいかにして立ち回るか、という『プロタゴラス』最大の見所の1つを担う、この不思議な「師匠」について次回見てみます。