本屋で素敵な表紙を見かけたのでちょっと手に取ったのですが、帯を見てびっくりしました。
お騒がせ西野さんの!
それは白い表紙で結構薄めの画集みたいな装丁をした絵本で、作者はなんとキンコンの西野!
西野さんは悪い意味で話題に事欠かない人という印象です。
特にネットでは2chを敵にまわしたりしてかなりかき回してるイメージがあります。
個人的には彼らの漫才ってあまり好きではないので(イジメっぽいノリが)、僕は彼にあまり興味はありませんでした。
本屋でいきなり本格的なイラストレーターをやってると思しき彼の絵を見て正直衝撃でした。
しかも値段も1500円と、この手のものにしては良心的な気がして、ついつい勢い付いて買ってしまいました!
(最近出費が多すぎな気がするのでそろそろ自重します‥)
取りあえず絵力はマジ
レジで「プレゼント用にお包みしましょうか?」と聞かれて、間違って「はい」と言ってしまったので、家に帰って包みを開くというイベントもありつつ、1ページ1ページじっくり読みました。
何はさておき、圧倒的な絵。
すごいです。ブリューゲルの版画みたいな質感のペン画です。
ものすごく書き込まれていて情報量が多く、細部ごとにストーリーを感じさせる圧巻のイラストです!
そしてただ単に作り込んであるだけでなく、例えば表情の繊細さなどセンスの部分でも勝負出来る絵だと思います。
オリジナリティ性の高い、訴えてくるもののある表情がここぞというところで描かれていてストーリーにのめり込みました。
ストーリー性について
舞台は「土星の裏側、人とロボットが暮らす世界」。
土星の裏側という設定によって、背景に幻想的な輪っかのある惑星がどでかく登場することになります。
これは確実に物語の世界をファンタジックにすることに貢献していると思います。
土星って異質感も存分にありますが、地球の兄弟なわけでそれなりの親近感もあるように感じました。
ロボットと人間が出てくるということになると、まずテーマは機械との比較で浮き彫りになる人間性といったところと察しがつきます。
でも、読み始めてしばらくしてこれは人間の物語のようだ、という印象を誰しも抱くと思います。
主人公ジップの動向を中心に物語は進むのですが、ジップは実に人間的で、ステレオタイプなロボットらしさはありません。
展開はスムーズで読みやすいのですが、「なんでジップをロボットって設定にしたんだろう?」と疑問に思いました。
ところが‥
お見事でした、ロボットという設定をホントにうまく組み込んだと思います。
ポイントは、よりロボット的な「キャンディ」というもう一人のロボットの存在です。
テーマは人間の限界
僕が受け取ったテーマは、人間の限界。
そしてそれを知ることは生の終焉ではなく始まりである。
というものです。
これは僕的にビンゴ過ぎるテーマです。
僕はギリシア神話やギリシア哲学が好きですが、ギリシアの古典を特徴付けるものに「神々」の存在があると思います。
神々は不死で万能です。
ですから神々とともにそこで語られる人間たちは「限界」が目立ちます。
たとえば人間は死ねば二度と生き返らないといった具合にです。
そしてそうした限界を隠さずに見つめることで始まる哲学がそこにはあります。
でも、これだけ機械化されグローバル化も進んだ現代において、民族や文化に根付く「神々」は多くの人に馴染みやすい装置ではなくなっているのも一理あると思います。
宗教よりは科学や資本主義の原理の方が、社会を動かす背後にあるものとして僕らの間では定着しているような気がします。
だから、人は「ロボット」や「機械」あるいは「仮想ネットワーク」を使って人間の限界と可能性を考えるようになってきてる流れがあると僕は考えています。
たとえば鉄腕アトム、あるいは大長編鉄人兵団におけるドラえもんがそうだと思いますし、仮想ネットワークを題材にしたものとしては映画『マトリックス』が有名でしょう。
そして「ジップ&キャンディ」も、その文脈で捉えて問題ない、しっかりした思想に支えられた作品だと思いました!
ストーリーも作り込みがすごい
この物語はイントロで「奇跡」を扱ったものであると宣言されます。
これはマーケティング的には簡単に人を惹きつける客寄せパンダ的な文句なのかもしれませんが、作者にとっては自らに重い責任を課す行為だと思います。
創作物である以上、何でもありなのですからルポなど現実を扱うものにくらべて「奇跡」には通常以上のものが求められてしまうと思います。
でもこの作品では、ジップとキャンディという二人のロボットの絆を少ないページでありながら丁寧に描くこと、周到なエピソード配置によって「奇跡」を見事に創出しています。
そして後書きに差し込まれた絵でさりげなく語られる、ささやかではありますが心温まるエピローグ。
絵だけでなく物語の方も作り込まれていると僕は思いました。
そんなわけで、僕はこの作品の内容に対しても太鼓判を押したいと思います!
名作です。
プレゼントにも良いのではないかと。