推理小説嫌いの僕がどっぷりハマった推理小説を二編紹介します。
前回は深緑野分の『戦場のコックたち』、そして今回は米澤穂信の『王とサーカス』です!
魅惑のサンプル
これはAmazonで読める試し読みでグイッと心をわしづかみにされた小説です。
サンプルで読める冒頭箇所はとても幻想的です。
主人公がどんな人間なのかも、舞台がどんなところなのかも霧に包まれて分からない。
不思議な夢のような世界。
推理小説というよりファンタジーみたいなテイスト(^ー^)
そんななか、場所がカトマンズのロッジだということが判明して物語が幕を開けます。
我慢できずに即購入した次第です。
ジャーナリストの苦悩
この小説も、推理小説でありながら推理の方はそんなに前面に出ずに、むしろ主人公のジャーナリストとしての苦悩がメインテーマとなっているように感じました。
メインテーマを強く印象づけるために推理小説的構成を利用した、そんな感じです。
このメインテーマとイントロで描かれたファンタジックな文体はそんなに連結していなくて、実は結構硬派で現実的な物語になっていました。
問題提起
そのメインテーマであるところの、ジャーナリストはどうしてニュースを伝える必要があるのか、大手メディアだけでなく、個人で活動するジャーナリストはどうして必要なのか、という根源的な問い。
場合によっては、その「伝える」という行為が人を傷つけ、死に追いやることすらあるのに、それでもなお伝える必要はあるのか、と主人公はジャーナリストとして苦悩します。
有名なケビン・カーターの写真の話も引用されます。
Kevin Carter’s most famous photo Source: The Unsolicited Opinion
情報源: How Photojournalism Killed Kevin Carter
ピューリッツァー賞を受賞したこの写真は、少女を助けずにカメラに収めることを優先したカーターの人間性を疑う声が上がって、結局カーターは自殺するという悲劇的経過を辿りました。
日々ジャーナリストはニュースを追って、それを伝える仕事をしていますが、時にこういった難しい問題に突き当たるのだと思います。
主人公も貧困国ネパールの内紛に巻き込まれて、自分のジャーナリストとしての存在意義を問われ悩みます。
本格的にこの難問に挑むのが小説の本筋になっていて、謎解きとか割と脇役なのです。
たどり着いた答え
主人公は最終的に一つの回答に辿りつくのですが・・・
個人的には、問題提起に留めておいた方がよかったのかも、と思いました。
あまりに現実に即しすぎていてもやもやの残る回答だからです。
本物のジャーナリストが読んだら、「まあそうですよね」と賛同を示されつつも「分かってますけどね」と言われそうな、そんな結論となっています。
そういう意味では惜しいところではあるんですけども、推理小説のスタイルを取っていながらより大きな枠組みを提示して戦いを挑んだ野心は評価に値すると思いました。
テーマ設定も時流に即していて挑戦的です。
こういう作家を応援したいと僕は思います。