新潮新書『黒いスイス』がタイトルと裏腹にスイスの凄さを感じられて面白かったです。
著者は熱いジャーナリスト
著者は毎日新聞のジャーナリスト、福原直樹氏。
初版は2004年で、その後版を重ねているようです。
著者の福原さんの、悪いことは問答無用で悪い、という姿勢には否定的な意見もあるようです。
盛り上がって批判してるけど、そんなのどこの国にもあることだよ、みたいな。
色々問題を起こした毎日新聞の所属であるという著者のプロフィールも、そういった反発の元にはなっているかと思います。
が、僕はこの人の言うことには耳を傾けてみる価値があると思いました。
というのも、彼はNATO空爆中のコソヴォに乗り込んで現地で取材をしていたということを割とさらっと文中に書いているのです。
それ結構すごいなと思いました。
命の危険のある現場に乗り込んでいくジャーナリストには敬意を感じずにはいられません。
彼が問答無用で悪とするのは、「家族を引き裂くこと」「命を奪うこと」といったもので、これ自体は何も間違っていません。
そこに、民族問題や政治的地政学的要因が加わることで、人によってはこういうのも「普通」になってしまうというのは何とも怖い、悲しいことでもあります。
なので、著者のような熱いジャーナリストにはこれからも頑張り続けて欲しいと僕は思います。
無批判に賛同するつもりはさらさらありませんけど(^ー^;
後ろめたさはあるものの
第一章では少数民族で流浪するロマ族に対する誘拐、虐待を政府が誘導していたことが暴かれます。
なんとも残虐な…と読んでいて胸が痛くなりました。
が、スイス政府は既にこの罪を認め、大統領名義の前文を掲げた報告書を公開しているようです。
そして被害者2000人以上への賠償総額は日本円にしておよそ8億8千万円(1スイスフラン≒80円で換算)。
今後も被害者救済のため、8000万円の基金も別途設立とのこと。
やったことに対する金額としてそんなに多くもない気がしますが、責任を認めて補償も行い、今後も救済を目指すというのは対応としてそんなに問題があるとは思えません。
問題は、ロマ族虐待の根拠と想定される「優生思想」になぜ支配されたのか。
これは何もスイスだけの課題ではありません。当時ヨーロッパ中を流行し、今でもその残滓は日本にだって残っていると思います。
これはしょうがないと許されるものでもありません。
そこはスイス政府も理解して動いてるのですから、あんまり非難する気にはなれませんでした(^ー^;
基本開かれた国?
それにしても、著者は他にもいくつかの問題点を洗いざらい検証していくのですが、基本的にどの立場からもインタビューが取れているのがなんかすごいと思いました。
なんやかんやと難癖をつけられてインタビューを受けてもらえなかった、なんてことはこの本では一度も出てきません。
被害者だけでなく、加害者サイドも普通にインタビューに応じています。
でもって著者も生ぬるい質問なんかせずに結構切り込んだ質問をして、なおかつそれに対する回答もきちんともらえています。
情報が統制されているわけではないという印象を受けました。
そういう意味で、言論の自由が保障されていないような国に比べてスイスは遥かに開かれた国に思われました。
色々問題はあるにせよ(^ー^;
唯一の黒さ、それはマネーロンダリング
この本の中で、良さではなく黒さのみを感じさせたものが一つだけあります。
それは、最後の第八章で扱われるマネーロンダリングについてです。
スイスの銀行に預金された各国幹部の資産という表が載せられていますが、錚々たる悪人たちの名前がとてつもない金額(それぞれが数百億円クラス)とともに掲載されていました(^ー^;
本文中からも少し引用すると。
スイスの報道によると、2002年時点で世界の企業や個人が国外で運用する資金のうち、30ー40%の約300兆円がスイスの銀行に集まる。英、米、香港、カリブ海諸国などが集める外国資金が、それぞれ世界の5ー20%であるのと比べれば、段違いの集中率だ。
ぶっちぎりにスイスにお金が集まっている状況が分かります(^ー^;
それもこれももっぱら「守秘義務」のおかげだというのだからスイスってのはこの点に関してはものすごく黒いと思いました(^ー^;
100年近くも前の話ですが、税金の高いドイツやフランスで「税金逃れのためにスイスに預金を」なんてPRしていたこともあるそうです。
独裁国家ならともかく、ドイツやフランスでの高い税金なんて格差是正、平等のためのものだと思います。
フランスは相続税が凄く高いそうですが、相続こそ不平等な格差を生み出す一番の根源だと思いますので、相続税を高く設定するのは何も間違ってないと思うのですが・・・
それを払わせないで個人の私腹を肥やすのを助けるなんて、ホント商売のことしか考えてないろくでなしどもといって良いでしょう(^ー^;
ちなみに、アルカイダみたいにテロだとかに関わっている疑いがある場合には情報は公開されるようになったそうですが、脱税に関してはまだまだ甘いらしく、そういった状況が上記引用部にあるような現状に繋がっているのだとしたら、スイスの黒さは疑いようがないと思います。
まとめ
お金には黒い、でもそこに住む人や外国から見た国としてはそんなに悪くないのがスイス。
というのが僕の感想でした(^ー^)
ところで、著者は後書きでブリュッセルからルクセンブルク、ドイツ、フランスと通ってスイスにたどり着いたとき、ゴミは少ないしクルマは整然としているしで全然雰囲気が違うと感動したことを書いていました。
なんだかんだで、著者だってスイスのことを魅力的だと思っているのです。
と言うわけで愛しているがゆえに書かれた本なのではないかな、と思います。
結構読みやすくてスイスイ(スイスだけに)読めたのも、恨みではなく愛によって書かれていたからかもなんて思いました。