カズオイシグロの「私を離さないで」は是非ネタバレなしに読みたい一作です。要するに衝撃の急転換があるということです(^ー^;
穏やかでやわらかな女性の語り
無料サンプルで書きだしを読めるので、何をさしおいてもまずお読みください。
女性の一人称で語られる小説です。
その文体は非常に物腰柔らかく穏やか。まるで日だまりのような優しさで読者を包んでくれます。
わたしの名前はキャシー・H。
いま三十一歳で、介護人をもう十一年以上やっています。
ずいぶん長く、と思われるでしょう。
たしかに。
ハートウォーミングなお話が読めそうだ、との期待が高まります。
ところがどっこいの驚愕の展開が待っています。
実は冒頭から「それ」はちゃんと語られているのですが、あまりにナチュラル過ぎて特異性に気付かずに見過ごしてしまうと思います。
どこかでネタバレさえ食らわなければ。
というわけで、なるべくネタバレ無しで読み抜くための大事なコツをお伝えします。
地名検索はNG
舞台は英国です。
なので、見知らぬ地名があったらとりあえずググるかと思います。
僕はアメリカの小説が結構好きで、読んでいるとたくさん知らない地名が出てきます。
例えばスタインベックの「はつかねずみと人間たち」には「 サクラメント」が冒頭の会話に出てきます。
ググってみるとカリフォルニアの州都らしいです(ロサンゼルスじゃないんですね(^-^;)。
そんな感じで、この小説に出てくる地名も何気なくググりました。
そう、ヘールシャムです。
これ、作者が創作した場所です。
なのでググると高確率でネタバレを食らうかと思います。
絶対に検索しないでください(^-^;
ポプラとか植物の名前がたくさん出てきますが、そっちは検索してもネタバレしませんでした。
未読の方はこの点だけお気をつけて、この素晴らしい小説をお楽しみください(^-^)
タブララサの国
で、ネタバレ抜きのレビューをもうちょっとしてみたいと思います。
この小説は、主人公の女性が小さい頃から30過ぎの現在までを振り返る形式となっています。
その成長過程で描かれる、子どもの純粋さ、しっかりと自分で考えようとしている健気さは胸を打つようないじらしさがあります。
これはとても魅力的です。
この小説に出てくる子ども達は、基本従順で大人に教えられた通りに物事を理解しようとします。
やはり、英国と言えばジョン=ロック。
ロックと言えば、タブラ=ラサ。米国のピンカーの言葉で言うブランクスレートってやつです。
子どもは真っ白い何も書かれていない石版のようなもので、自由に書き込み可能っていう。
もともと何かをもって生まれてくるわけではないので、大人がこうだと教えたら、それに従って物事を考える様になる・・・だから教育って凄く大事ですみたいな感じだったかと思います。
生まれながらにして魔王、みたいなキャラは居ないのです。
人によってはそれが気にくわないかも知れません。
矛先は大人に
特に「驚愕の事実」が判明してからも基本的に従順な子ども達には不満の読者も少なくなかったようです。
が、僕はあえてこの小説で矛先を向けるべきは子どもたちではなく、大人達だと言い切りたいと思います。
子ども達は悪くない・・・タブララサで生まれた彼らに問題があるのなら、それは石版に書き込みをした大人に問題があるということになるかと思います。
解説の中で、訳者はある疑問を掲げるのですが・・・
その疑問の矛先は、大人に向けられています。
そして奇しくも僕の思う最大の疑問とシンクロしていました。
読み終わってからにはなるかと思いますが、今一度この話を思い出し、検討してみていただきたいです。
責められるべきは、子どもか大人か。
ネ?(^-^)
漱石の「こころ」とか、鷗外の「阿部一族」に匹敵するくらいに色々と考えさせられる小説だと思います。
お時間と心に余裕があるときに、じっくり読み込む価値のある、とても良い小説です。