ハンターハンターにも出てくるうえに、曲名となったこともある「陰獣」は乱歩を知るのに最も適した作品だと思うのでご紹介します。
必然としてのタイトル
一応推理小説の体裁を取ってはいるものの、芥川龍之介の「藪の中」のように真相が分かりません。
「藪の中」は相容れない3つの真実が併存するものでしたが、「陰獣」はもっとイヤらしいやり方で真相を隠してしまいます。
推理小説でありながら推理小説そのものに疑問を投げかけるような、メタフィクショナルなところがある刺激的な小説です。
だからタイトルは「机上の空論」とかでもアリだったと思います。
でも乱歩は、天才でありながら同時に変態でした。
それも、ちょっとやそっとの変態ではなくて真性かつ神性まで帯びたほどの変態でした。
だからタイトルは既成の言葉ではない、独特の淫靡な湿度と温度を醸す彼独自の言葉「陰獣」でなければならず、また美女の背中には激しい鞭の跡がなければならなかったのです。
電子書籍の表紙は若干謎なのですが、まともな小説ではないことは分かるので間違ってはいないと思います。
ホラーってのはちょっと違うと思いますけどね!
美女をめぐる駆け引き
設定は18禁ものを匂わすようなヤバい香りぷんぷんのものとなっています。
夫には言えない秘密を持つうつくしい人妻。
そして彼女が唯一頼れる存在としての主人公。
ね?(^-^;
しかも主人公にはこの人妻相手になにやら下心が垣間見えるっていう・・・もう、ね。
お約束と言えばお約束ですが、その怪しい魅力と抗えない本能の描写にはドキドキさせられてしまうに違いありません。
謎の探偵作家はどこに?
この小説はそんなエロい香りを常に漂わせていて、しかもそっちはそっちでちゃっかり展開していきます。
男子中学生には読ませない方がいいかもしれないってなレベルで。
一方、美女を脅迫する謎の探偵小説家を巡る物語の方は恐らく本筋なのですが、こっちはこっちで予想を覆すような大どんでん返しが待っています。
ちょっと前にホリエモンのメール問題で名前の挙がった「西澤なんとか」っていうジャーナリストみたいに、犯人に相当する探偵小説家の存在があやふやになっていくのです。
この流れはすごくスリリングで感動します。
エロが絡む必然性が果たしてあるのか、僕には分かりませんが、きっと乱歩の変態ッぷり故にこうなったのだと考えると納得がいく気がしました(^-^;
乱歩一発目に
そんなわけで、推理小説としての技巧性と発想の自由さとともに鮮やかに描かれるエロさを堪能できる「陰獣」は乱歩一発目としてピッタリかと思います。
そうそう、短い、ということも忘れてはなりません。
陰獣、あまりにすごい展開があるため大長編の予感がしたのですが、割とあっさりと終わってしまいます。
長ければ長いほどいろんなものが描けると思いますが、割と短い中にこれだけ劇的な展開を詰め込むのは、やはり天才と言っていい才能だと思います。
そして、上で紹介した本には、陰獣以外にもう一編の作品が収められています。
タイトルは「孤島の鬼」。
これがまた、独創性とともに超・変態っぷりが遺憾なく発揮された世界の広がる壮大なストーリーで必読です。
時代が故の差別表現がだいぶ気になるところですが、これ、ここ数年に出された作品だと言われたほうがしっくりくるくらいに、ものすごくアレです。
アレが何かについては、次回。
乞うご期待(^-^)