西加奈子の「サラバ!」、読み応えあって面白かったです(^-^)
西加奈子最新作
本の本、雑誌ダヴィンチに対する憧れについては以前述べました。
そんな憧れのダヴィンチが見開きでレビューを掲載したのが、西加奈子の最新作「サラバ!」です。
分厚い上に2分冊という、この忙しい現代にあるまじきスタイルの小説。
でもこれがまた読めちゃうんですよね〜。
2-3週間かかりましたけど、見所が多かったです。
というわけで、この小説の凄み・オリジナリティについてご紹介したいと思います。
ちなみにダヴィンチのレビューとは全然被りませんでした(^-^;
ダヴィンチでは「凄い(すごい)」という言葉が連発されていたので、なるべく使わずに行きたいと思います!
原初の言語
主人公は父親の仕事の関係で幼少期から小学生までをイラン、エジプトと中東で過ごすことになります。
そのエジプトで、主人公はあるエジプト人の少年に出会います。
その名はヤコブ。
エジプト人なのに、ヤコブ。
そう、彼はイスラム教徒ではありません。
キリスト教の少数宗派を信奉しているそうです。
そのヤコブと、主人公が交わすコミュニケーションが面白いのです。
彼らは日本語もエジプト語も、もちろん英語も使わずに、でも明白に言葉を使ってコミュニケーションを取るのです。
主人公は記憶を頼りに当時を思い出そうとするものの、自分とヤコブは一体何の言語を使って喋っていたのだろうと不思議がります。
この不可解なコミュニケーションを、実は僕も大学時代に感じたことがあります。
日本文化の紹介
韓国の済州島の学生との交流については、割と期待外れに終わったことを記事にしたことがありますが、彼らとの飲み会でのことです。
僕たちは基本的には英語でコミュニケーションを取っていました。
が、あいにくお互いそんなに英語がうまくないので、話題はつまらないものになりがちでした。
何がおいしいとか、どんなテレビが好きとか、将来は何をしたいとか、そういう英語の教科書に出てきそうな会話以上のことを僕たちは話せませんでした。
でもせっかくの飲みの場、僕は日本にわざわざ来てくれた彼らに、日本の良さ、面白さを知ってもらおうと色々熱弁しました。
その一つが、日本人は好きな人に「好きです」とは言わないということでした。
もちろん、言う場合も多々ありますが、日本人の美的価値観からするとそのような直接的表現はあまり好まれません。
だから、I love youは「愛してる」ではないのだということを、彼らに話しました(有名な漱石の話はしませんでしたけど)。
むしろ「大嫌い」の方がI love youの訳語としては近いニュアンスがあるし、アニメなどを見る際にはそのような文化的背景を知っていると理解が大いに深まることを、ダーーっと一方的に語りました。
熱意は言語を超える?
でもこれ、自分でも良く覚えていないのですが、思い出しても英語で再生出来ないんですよ笑
じゃあ日本語だったかというと、韓国人学生たち相手に完全な日本語でこの話をしても、まずほとんど理解するのは不可能だったはず。
だからたぶん、僕たちは、僕たちだけの言語でコミュニケーションをしていたのだと思います。
僕は、これだけはどうしても伝えたいという熱意がありました。
学生たちも、こいつはなんか面白いことを言ってるぞ、という目でこちらを見ていました。このような場合、案外人間は言語を飛び越えて意思疎通をしてしまう場合があるのかもしれません。
そして、子ども同士のものとはいえ、人間に備わったこのように不思議なチカラを思い出させる「サラバ!」のエジプト編エピソードは途轍もなく価値のあるパートだと思います。
なにせ、タイトルの「サラバ!」は主人公とヤコブだけの秘密の暗号だったのですから!
この小説で一番大事なのは、間違いなくここのはずです。
そして、出てくるのは前半ですが全編を貫く主徴として小説の芯となっていると思います。
読んでいて一番ビビる、感嘆する部分でした。
宗教を笑う
もう一つ、この小説には最初から最後までちょくちょく宗教のモチーフが顔を見せます。
時に全面に出ることもありますが、これが結構笑えるように描かれています。
その最たるものが、章のタイトルにもなっている「サトラコヲモンサマ」。
ある日近所のおばちゃんのおうちにおいてあった、謎のお札に書いてあった言葉です。
なんか楽しい響きのある言葉ですよね?
このお札。
とんでもないことになっていくのですが・・・
西加奈子はギャグのセンスがかなりあるみたいで、この宗教エピソードはかなり面白かったです。
かといって、小馬鹿にするわけでも茶化すわけでもありません。
いろんな人間に対する愛に溢れた作家による、楽しいユーモアだと思います。
人間が面白いとおもうなら、超アリな小説
そんなわけで、読みどころが結構ある傑作小説サラバ!は、生き物として、あるいは社会的存在としての人間に面白みを感じるのであれば、絶対にお薦めです。
こんなに小説世界に入り込んでしまったのはHHhH以来かもしれません。
結構主人公はリア充のケがあって、絶望の表現としては微妙なのですが、挫折の表現としてはかなりうまくて完全に僕も打ちのめされかけました。
そんな風に物語性でも読ませる力があります。
でも最終的には、やっぱりタイトルの言葉が象徴するもっとも大事な部分に行き着くと思います。
この作家、もっと他の作品も読んでみたいと思いました(^-^)