ビジネス書として最近ブームの『嫌われる勇気』を読んでみましたが、これ超物足りません!
『嫌われる勇気』って
この本はアドラーという心理学者の学説に関する本だそうですが、タイトルが示すように処世術を説くような感じになってました。
帯にもそれを煽るようなキャッチが。
さて、上の画像リンクはアフィリエイトなしのリンクです。
いろんなブログでそこら中にこの本のアフィリエイトリンクが張られていますが、僕は買う価値が無いと思っているので生リンクかましてやった次第です。
不満①アドラーの価値が分からない
冒頭の方で、アドラーがあのフロイト、ユングと並ぶ心理学三大巨頭の一人であることが述べられます。
これがかなり衝撃だったので読んでしまいました。
が、結局アドラーがどうしてこの二人に並ぶほどの存在なのかは分からずじまいです。
ここで、恥を承知で僕なりのフロイト、ユングについて述べてみます。
僕の考えるフロイトの価値
フロイトは最も重要、時代がいくら経過してもその価値は揺るぎようのないとてつもない発見をした人だと思っています。
彼が見つけたものは、「無意識」です。
無という言葉がついてはいるものの、その影響力はかなり強く、僕たちの意識に様々な作用を及ぼしています。
フロイト以前から、人間の意識に作用する不思議な潜在的何かについては気付かれていたと思いますが、それを「無意識」として捉えたのはフロイトが人類史上初めてだったのではないでしょうか。
そして、個人的に重視したいのは彼が医者だったことです。
哲学あるいは科学的な真理の探究のために無意識を発見したのではないのだと僕は思いました。
彼はたぶん、自分の患者を救うために無意識の存在を捉えたのだと思います。
彼の名前を文化史から外すことは絶対に許されないでしょう。
僕の考えるユングの価値
ユングは、フロイトの切り開いた世界の中で活躍した人ではあるものの、フロイトが思いもしなかったであろう想定を行いました。
よく言われますがそれは非常に東洋的な発想だったので、彼も日本の教育課程においては外すことが出来ないと思います。
ユングは、無意識の底の方で人間は繋がっていると考えました。
そしてその最奥では、宇宙とも繋がっているなんていう曼荼羅世界を持ち込んだ、それが彼の価値だと思います。
で、こんな個性ぎらつきまくりの二人に並ぶほどの何かをアドラーは示したのだということを説明する義務が、この本の著者にはあるはずです。
ところがどっこい、フロイトとユングの総括がなされていないことからその義務を果たすつもりのないことが伺えるように、この著者は結局アドラーが二大巨頭に並ぶことを示せていないと思いました(ただし世界的に三大巨頭扱いされているのは事実のようです)。
不満②古代ギリシア哲学の認識がペラい
第二の不満点は個人的に最も気にくわない点です。
それは古代ギリシア哲学を代表するソクラテスとプラトンの関係を「書物を書かずに口述のみで持論を展開した師匠と、それを本に残した弟子」という安直なモデルで理解している点です。
ソクラテスとプラトンは、僕の理解ではタッグを組んで世界中を未来永劫にわたって欺き続ける大芝居をぶっこいて見せた稀代の天才詐欺師です。
この詐欺にはまった人は、高貴な精神のありようを、たとえ命を捨ててでも主義を貫くことだと勘違いしてしまい高邁な精神をもって一生を送ることになるというとてつもないしかけです。
その芝居とは、言うまでもなく『ソクラテスの弁明』です。
未だにあの本を読んで、ソクラテスの高貴な精神に感動する人が後を絶たないんじゃないかと思います。
ソクラテスはそんな高貴な精神なんて説いておらず、単純に「死」がなんだかワカランのだからそれを恐れることもないよ、ということを言っているだけなのに(分からないから怖いという恐怖の本質についてはここでは触れないことにします)。
ソクラテスは周到に言葉を選び、プラトンも見事に様々なしかけを配備して『弁明』を記述して、このトリックを完成させました。
哲学史的に考えると、プラトンは初期こそソクラテスの主張をそのまま代弁したと言われてますけどイデア論を立ち上げてからの中期以降は完全彼の独自世界であって、ソクラテスは登場人物として利用されるだけっていうのが実態だと思います。
そんな風に、かしゆかの腰のごとく実り多き豊かな大地である古代ギリシア哲学の栄華を、実に下らん師弟物語に短絡化させてしまっている著者に対して、僕は不信感しか持てませんでした。
(実り豊かな腰(^ー^))
よりお勧めの書
そこで、この本を読む変わりとなるものをチョイスしてみたいと思います。
残念ながら、僕は「嫌われても構わない」なんて思えるほど心は強くないですし、自由に生きている自信もありません。
しかし、この「嫌われる勇気」を読むくらいならもっと読むべき本を紹介することはできそうです。
その本とは、ずばり『ギリシア哲学と現代―世界観のありかた』。
安心と信頼の岩波新書です(^-^)
ギリシア哲学と現代―世界観のありかた (岩波新書 黄版 126)
そして著者はプラトン関連の本では欠かすことの出来ない藤澤令夫です。
藤澤さんの本は、とにかく読みやすいことが特徴で意味不明な翻訳文を平気で載せる他の学者とは一線を画しています。
「嫌われる勇気」では、突如「踊るように生きよう」なんてことを言い出します。
そして終盤にアリストテレスの「エネルゲイア」という考えを持ってくるのですが、あまり親切な解説をしてくれてはいません。
エネルゲイア的な生き方を最終的な目標として設定しているのにもかかわらず、です。
藤澤さんの本では、プラトンとアリストテレスを比較しつつ、件の「エネルゲイア」についてじっくりと考え、概念として理解が進むように書かれています。
古代ギリシアの哲学者たちが議論を交わしたのがどういったシチュエーションだったか、なんてことまで解説してくれていて、大自然に囲まれて明るい日差しの中で思索にふけるような気分も味わえます。
そして今なら古本で激安で入手できるというこれ以上無いお得な本です。
嫌われる勇気を持とう、というコンセプトは素晴らしいと思うんですけどね…そんなの、中々難しいですよね(^ー^;
僕の紹介した本の方は、少なくとも読み物として楽しめる面白い本ですので是非ご一読ください(ブックオフでも100円コーナーにあると思います)。