まさかの武闘派アレンジだったチョコレイト・ディスコXTRMNTR-mixを経て、いよいよ最後の一曲へ…と、その前に。
2014年7月某日
僕はその日、いつも通りに仕事から帰りました。
スーツを脱いで部屋着に着替えながら、今日の晩ご飯についてなどを妻と話していたと思います。
そのとき、妻が微笑んで言いました。
「あれ、ダメだったみたいだね」
一瞬なんのことかと思いましたが、すぐに分かりました。
Perfumeの新曲、Hold your handのPVに使う写真に応募したのが、実際に使われたかどうかの発表があって、僕たちが投稿した写真は選ばれていなかったのです。
リリックPV
それは歌詞に出てくる言葉を人の手に書かれた文字で表現するという企画でした。
Perfume「Hold Your Hand」Lyric Video Full ver. 写真募集 特設サイト
僕と妻は色々考えて、そのとき募集が少ないとアナウンスされていた文字を選んで、背景とか文字のデザインとかを決めました。
それで締め切りぎりぎりに何とか応募が完了して、悪くない写真を投稿できたなんてはしゃいだものでした。
応募締め切りから完成版公開までは数週間の間隔があったために、そのときの記憶はうっすらと消えかけていました。
そのため公開された直後に自分たちの写真が使われたのを確認したわけではありません。
若干のタイムラグがありました。
僕は確か、移動中か何かに完成されたPVを見て、僕らが投稿した写真が選ばれてなかったことを知りました。
根拠もなく使ってもらえる気がしてたので、正直残念でありがっかりしました。
曲自体はもともとショートバージョンを聴いたときから惚れていたものの、なんとなく妻との間でこの曲が気まずいというか、自然と遠ざけてしまうようになっていきました。
この曲を収録したシングルが4曲入りと他にも注目ポイント満載だったこともあって、当初抱きかけていた愛着もどこかへ流れ去っていっていました。
2014年9月21日代々木第一体育館
初体験のライブもいよいよ終盤。
とうとう次が最後の曲だと告げるあ〜ちゃん。
彼女は下手な締めは絶対にしません。
みんなそれを知っているから、あ〜ちゃんがしゃべりだすと耳を澄ませて次の言葉を待ちました。
あ〜ちゃんは、意外なことを言いました。
「リリックビデオ、私たちは気が進まなかったのです」
ダンスコンテストとか、生中継とか、新しいことをどんどん取り入れていったPerfumeのことだから、今回のこの企画もてっきり意欲満々に取り組んでいたものとばかり思っていました。
どうして気が進まなかったのでしょうか?それは分かりませんが、あ〜ちゃんはこう続けました。
「完全版には入りきらなかった手も、たくさんあります。
今日はそれも背負って歌いたいと思います」
入りきらなかった手…まさかそこに、この場で触れてくれるとは思っていませんでした。
そしてそれを背負いたいなんて言ってくれるとは。
「こんなにたくさんの手に求められているなら、もっと応えていきたいと思いました」
僕たちの手は、PVには載せられませんでした。
が、3人にはちゃんと届いていたことが分かりました。
言われなくても分かってはいたはずですが、改めて直接言われると感極まりそうにこみ上げるものがありました。
あ〜ちゃんは、さらに続けました。
「まだまだ、この手で掴んでいきたいです。夢も、チャンスも、そして」
一瞬、間が空きました。
ちょっとはにかむような、そんなためらいがありました(とてもかわいい)。
それで、あ〜ちゃんは最後の言葉をつなげました。
「…あなたも」
20. Hold Your Hand
イントロのコーラスが始まった瞬間、まるで僕たちはみんなPerfumeと親友になって語り合うかのような親密感に包まれました。
全然気づけていませんでした。
Perfumeが今まで人を、想いを、何よりも大事にしてきたことを体現するような曲がHold Your Handでした。
聴きながら気づいたこの歌のすばらしさを一点だけ。
ガラスは絶対に割れちゃうってみんな知ってる。
それを、絶対割れない、というのは厳密には間違いです。
そんな間違った言葉を、強調するかのように繰り返して歌うのは何故でしょうか?
僕は不思議に思いました。
でも次の瞬間、歌の直前のあ〜ちゃんの言葉が僕のなかで自然に連関していきました。
そして絶対割れない意味が分かったのです。
「私たちが割らせないから、君の心はガラスであっても絶対割れない」
画面に映し出された大量の投稿写真。
そして中盤、スクリーンには会場の観客たちが映し出されました。
これ以上、何を望むことがあるでしょうか?!
感動のフィナーレ、一端幕
我ながら勝手なものです。
一時期、リリックビデオに載せられなかったことで、関係に傷をつけられたかのようにこの曲を遠ざけていた自分がバカみたいだと笑えてきました。
心地よい、熱い涙が頬を伝うのが分かりました。
この曲が奏でられ、三人が歌い、踊る間、僕たちは一番近づきあって、お互いの存在を確かめ合っていたように思います。
すっかり打ち解け合ってみんなで戯れるような至福の時間でした。
このあとPerfume史に刻まれる一大イベントが控えていることなどすっかり忘れて、ライブならではの瞬間的な体験に酔いしれていました。
歌が終わって三人が去ったときに、妻が言いました。
「写真。送って良かったね!」
うん、本当に良かった(^-^)
僕たちは心の底からあの企画に参加したことを喜び合えました。
次回、お楽しみのアンコールタイムです。