少々遅れてしまいましたが、iPS細胞の山中先生ノーベル賞おめでとう記事です(^-^)
小文字のi
Perfumeののっちのアルファベット表記をご存じでしょうか?
正しくは、NOCCHiらしいです。最後だけ小文字なのです(公式サイトのバイオグラフィ参照)。
こないだ先輩が実験のために出張に行ったのですが、そこにiCytという名前の装置がありました。
このように、「小文字のi」は非常に良く見ますよね。すっかりモダンの記号と化してる感があります。
たぶんiMacを元祖とするiPodやiPhoneなどのアップル関連製品のパクリなんじゃないかと邪推したりしています。
そして山中先生の作り出したiPSにもこの小文字のiが使われています。
iCytの最初のiがどうして小文字なのかは知りませんが、iPSのiが小文字なのはアップル由来だそうです(iMacでなくiPodから取ったとされているようです)。
意味はinduced、誘発されたものであることを意味します。ここには人為的に作られた、みたいな意味があると思います。
蘇るES細胞の記憶
山中先生がiPS細胞を発見する少し前、世界はES細胞に湧いていました。
こっちは胚性幹細胞の略で人為的に作るのではなく自然に作られたものを利用します。
この時世界をリードしていたのは日本人ではなく、韓国人でした。
ソウル大の黄禹錫教授です。当時は彼こそノーベル賞間近などと言われていました。
彼はヒトの卵細胞(将来人間になる可能性のある細胞です)を用いてES細胞を作ることに成功した・・・と言われていました。
ES細胞もiPS細胞と同様に色々な臓器に分化可能ですので、もし実用化されたら難病の治療の可能性が開かれるとも言われていました。ただし、卵細胞を使用するために倫理的に問題がありはしないのかという疑問もありました。
なぜなら、それは将来人間になったかもしれない細胞だからです。
そんなものを研究材料にするのは人体実験と変わらないかもしれないです。
黄禹錫教授はその後研究結果のねつ造がばれて失脚。卵細胞の扱いに関しても倫理もへったくれも無かったことが明かされました。
彼のねつ造によって、ES細胞の研究には猛ブレーキがかかりました。
もともとキリスト教圏ではこういった再生技術自体煙たがられていたという背景もあったようです。
山中教授現る
そんな停滞した状況を180度転換したのが、山中先生の発見だったのです。
時代を切り開くことになった彼の論文の著者欄を見ると、著者の数が非常に少ないことに気がつきます。
そうです、たった二人です。
論文の著者欄に名前が載ることは研究者にとって非常に重要なステータスです。
通常、1st authorと呼ばれ筆頭に名前が出るのが研究を行った人です。2nd authorとして2番目に名前が来るのが、その下で働いた学生などです。そして最後には、その研究の総責任者、研究室の教授などが来ます。
間に来るのは、例えばその実験に必要な細胞、試薬などを作成した共同研究者などが名を連ねます。
そして著者一覧に名前が入ることで、その論文を実績として掲げることが出来ます(当然プロ相手だとどの位置に名前が載ったかまでジャッジされてしまいますが、一般的に業績として載せる場合はどこの位置にあっても可能なようです)。
なので業績水増しのために特に関わりないのに名前を入れたりすることが横行しています。
そこまで露骨じゃ無くても、普通はちょっとでも研究に関わったら敬意を表する意味合いも込めて著者一覧には載せるものです。
特にランクの高い論文なら、著者一覧には10名を超える名前が載せられることも少なくありません。
山中先生のiPS細胞作成論文はセルに載りました。
セルはネイチャーやサイエンスに匹敵する、最強論文の一つです。そんなところに載るのは例え京大の研究室とはいえ普通のことではありません。
ですから、本当ならこの論文にも、たくさんの共著者の名前が掲載されるはずです。
なのに、たった二人しか載っていない。
この事情に関して、ウィキペディアの人工多能性幹細胞の項にこんな記述がありました。
当時は韓国の捏造事件が発覚した直後であり、厳しい批判が予想されたため、論文の著者はあえて自分と筆頭著者だけに絞った。
ここでの韓国のねつ造事件というのは、まさしく先ほど述べた事件のことです。
当時いかに再生医療の研究が難しかったかが分かります。また、ウィキではさらにこんな記述があります。
現在では、Fbx15ノックアウトマウスの樹立に貢献した大学院生と技官の2名を著者に加えなかったことを大変後悔している、と山中は述懐している。
仲間達を非難から守るために名前を載せなかったことも、その後そのことを後悔したのも、どちらも山中先生の人柄が表れた良いエピソードだと思います。
公開されてる論文
さて、この論文無料で公開されていますが、みなさんは読んだでしょうか?
一般の方には難しいものだと思います。が、理系の学生なら挑戦していいと思います!
僕もつい最近ですが通読しました。英語は難しくありません。ただ、知らないことが多すぎるのでちまちまストップしながら読む必要があります。
ただ日本語での解説をしてくれているサイトもたくさんありますので、案外なんだかんだで最後まで行けるかと思います。
で、この論文の何がスゴイかというと、iPS細胞へと細胞を変化させる因子の組み合わせを発見するプロセスです。
天才のひらめきを見ることが出来ます。
シンプルなひらめき
因子の候補は24種。これを全部使えばiPS細胞になります。
この中から最低限必要なのはどれか、を考えたのです。
普通に考えるとこれが超大変な作業であることが分かるかと思います。
まず、24種のうちいくつが最低限必要なのかが分かりません。
例えば2種が必要最低限の因子数であれば、組み合わせは24C2で276通りもあります。
3種であれば、組み合わせはさらに増え、4種以上になるともっともっと増えます。
これらを1個1個しらみつぶしに調べていくとなると日が暮れるどころか何十年何百年もかかり兼ねません。
そこで山中先生が考えたのは、“1個抜かしてみる”という発想です。
1個抜かして、iPS細胞にならなかったら、それは必要な因子に違いない。
抜かしてもiPS細胞になったなら、それは無くてもいい因子ということになる。
24パターン試すだけで良いのです。
実際やってみると、抜かすとiPS細胞にならないか、非常になりにくくなる因子が10個ありました。
これだけでもすごく価値のある発見だと思います。が、彼らの手法はまだまだ使えました。
今度はこの10個を使って「1個抜かす」実験を行ったのです。
結果、4つの因子が不可欠であることが分かり、この4つだけで24種全部使ったときと同様の細胞=iPS細胞が作成できたのです。
この、無限にも見える候補の中からシンプルに目的へと切り込んだ手法は外科医出身の大胆さ、などと表現されます。
彼が人類を一歩先二歩先へと導いたのは間違いないでしょう。