偽Perfume

僕のゆかちゃん vol.3

このシリーズは僕が見た夢、つまり妄想の一種。

切なき夢

ドグラ・マグラに出てきた悪夢のように、現実に浸食することはありません。
穏やかな夢です。
ついでに論理破綻・キャラ崩壊くらい朝飯前。

でも中々僕の都合の良いようにはいってくれない。笑

そんな、やるせない夢です。

ブラジルの路頭で

何度やってもギャラクシーのGoogleマップは現在地をブラジルと表示した。

道路が舗装されていないため、砂埃が巻き上がる往来。
そこここにある露天では、店主が盛んに声を張り上げて客引きをしていた。

「ここだよ、中田さんが紹介してくれたの」

かしゆかはネイティブブラジリアンらしき店主に「ナカタサン」と告げた。
店主は大きく頷き、僕たちに支払いは無用だと手振りで示した。

そこは串焼き屋だった。串焼きと言っても焼き鳥みたいにかわいらしいものではなく・・
太い串にケバブみたいな肉がぐるぐる巻き付いて、他に野菜や粉ものがまとわりついていた。

僕は空腹だったので、店主に渡されたそれを躊躇することなくほおばった。

「うまい・・うまいぞ」

がっつきまくりながら、香辛料の香りたっぷりの肉料理を味わった。

でもこんな庶民的なの、かしゆかや中田さんが好むだろうか?
隣を見ると案外かしゆかもおいしそうにちょぼちょぼ囓っていた。

太陽の国

もぐもぐしながらかしゆかはキョロキョロしていた。

かしゆかと二人きり・・
こうした機会は初めてではない。

残念ながら、もはや僕はかしゆかと二人きりという状況に若干の慣れを感じてしまっていた。

大して立ち入った話が出来るわけではないが、かといって突き放されるわけでもない。
そんな距離感に喜びが無いと言えば嘘になるが、しかし物足りなさは果てしなかった。

「焼けたくないなぁ」

と、ノースリーブのかしゆかはまぶしげに太陽を見上げていた。

一瞬、日焼け止めを塗ってほしい的な提案が来るかと期待した。
が、そんなわけないことも十分分かっていた。
そのラインは厳密に僕たちの間に設定されていて、破ることはあり得なかったのだ。

夕暮れの廃墟にて

僕たちは気づいたら廃墟に来ていた。
そこは観光地なので他にもたくさんの外国人がいた。

僕たちは行列に並んで、順番に現れる色々なモニュメントな類のものを眺めた。

例えば、そこには十字架に吊されたキリストのミニチュアがあった。
あるいは、ピエタの様なマリアを描いたフレスコ画があった。

廃墟の割れた窓ガラスから夕日が差し込んできた。

「明日はどうする?」

僕は何となく聞いてみた。一通り展示物は見終わったようだった。

かしゆかは、ね、とだけ言って笑った。
ノーアイディアということだろう。

そこで僕は提案した。

「暑いし、海でも行こうか」

かしゆかは即座に首を振って、水着とか無いし、と言った。

「買えばいいじゃない、出すよ」
と僕は押したが、昔雑誌のグラビアで水着になったことはあるけど、もうさすがに無理無理と言って聞かなかった。

二人とも黙ってしまった。

しばらく二人で黙っているといい。 その沈黙に耐えられる関係かどうか。

キェルケゴールの言葉が浮かんだ。

哲学者ともあろうお方が、言葉にはもうちょっと厳密であって欲しいと思う。
沈黙を「耐える」などと考える必要性のない間柄こそが理想であり、「耐えられる」と表される関係性が果たして良いのかどうか微妙なところだ。

僕とかしゆかにとって、沈黙は耐えねばならぬものだった。少なくとも、僕には。

かしゆかは、どうだろう?ふと彼女の方を見てみる。

目が合うと、にこっとほほえんでくれた。

なんだ、さっきの水着の件、もうすっかり忘れてくれてるらしい。
どうしよっかなー、なんて言いながら本気で悩んでいるらしかった。

どうやら、かしゆかにとっては沈黙は「耐えられる耐えられない」の問題ではないらしかった。

ふわっと、身体が軽くなるような、自由になれるような不思議な感覚が僕に訪れた。

ダイムサンダ

「とりあえず踊りたいよね
かしゆかが不意につぶやいた。

満面の笑みを浮かべていた。超可愛い。

「いいね、じゃサンバの練習をしとこう」

僕が言うと、かしゆかは両腕を上げて軽く腰を振ってみせてくれた。

うねるライン。
連動するパーツ。

これはえろい。出ないけど、鼻血を抑えねばならない気がした。

「やらないの?」 かしゆかはからかうように僕を見ていた。

僕は精神を落ち着けて答えた。
「やるよ」

しょうがない、僕はまねしたつもりで体を動かしてみた。
が、全く動かない。動くには動くが、全然思い通りに行かない。

で、脚がもつれて躓いて転びそうになった。

「あぶない」
僕が身を守るために伸ばした手を、かしゆかがとっさに受け止めてくれた。

触れあう手と手。

彼女の手に僕の手が触れた瞬間・・

ホントに電流が走ったみたいだった。
それもピリッなんて静電気的なもんじゃない。
バリバリッて電撃に撃たれたみたいだった。

ファイアーエムブレムでいうところの、ダイムサンダに相当するレベルだった。

僕はすぐに手を離した。
転倒はせずに済んだ・・そしてかしゆかを見ると。

かしゆかは、僕の手が触れた自分の手を、驚いて見ていた。
目をぱちくりさせてきょとんとしていた。

もしかして、彼女にも電撃が・・?

「・・・大丈夫?」
僕が聞くと、かしゆかはハッと我に返ったみたいで、そっちこそ大丈夫?と聞いてきてくれた。

僕がかしゆかに触れると、電撃が走る・・・
もしやこれは、二人の間に一定の距離を保つために仕掛けられた防御システムなのだろうか?

しかしかしゆかは、それを認識していなかったっぽい。予期せぬ反応に驚いてさえいるようだった。

鼻歌イギー

何となく気まずくて、僕はこないだ書いた日記について話した。

僕はその記事でギターが気持ちいい曲リストをつくり、チョコレイトディスコを挙げたのだった。

かしゆかはそれをおもしろがって、他にはどんな曲を挙げたのかと聞いてきた。
僕はなんとなくカッコつけてヴェルヴェッツやイギーポップも勝手にリストに加えた。

「イギーポップいいよね」
かしゆかは意外なところに食いついてきた。

こう、こんなところが・・と言いながら何故かジョジョのポーズを取りながら、イギーポップの「passenger」を口ずさんだ。

ザ・パッセンジャー
イギー・ポップ
1977/08/27 ¥250

すごい渋いチョイスだと思った。あれ、アルバムのジャケットがまたいいんだよね、と言うと「そうそうそうそう!」とえらい盛り上がってくれた。

「でもホントに好きなのはぁ・・」

と言って、見とれてしまうようなにやけ顔を見せてくれた。
楽しいことを思い出すような、幸せそうな笑顔だった。

不意に、かしゆかはこちらを見てニヤッとした。そしてへんてこなフレーズを鼻歌で歌い出した。
「たらったらったらったららららら♪」

むむむ、これは何だろう?僕が知っているのだろうか…

「ほら、イギーポップがゲストで参加したやつ」

ゲスト?となるとちょっと分からないかもしれなかった。
鳥みたいな声の人がボーカル、というので僕はホワイトストライプスかスマパンかと聞いたがどちらも違うらしい。

けれどもかしゆかが何度か鼻歌を口ずさむ内に、何となく聞き覚えがあって、あとちょっとで思い出せそうな気がしてきた。
僕は自分のiPodを探ったがどうやら入っていない。

タワレコin渋谷

それで慌てて渋谷のタワレコに駆け込んだ。
探しに探した。

途中で何の曲だか気づいて頭の中でその曲がガンガン流れ出した。

むちゃくちゃ格好いい曲だ。
十年ぶりくらいに思い出した気がする。
どうして忘れてたんだろう?

年代的にかしゆかは知らないはずだが・・・
いや。

可能性はあったのだ。

ひらめきが僕の脳内を駆け巡り、一瞬で全てが繋がった。
かしゆかは少し離れたところから、ゆっくりこっちに向かってきていた。

綺麗な姿勢、艶やかな動き。
僕はこちらだと示すように手を振った。

「これ?でしょ」
と言って、僕はあるアルバムをかしゆかに見せた。

「そう、それそれ!」
嬉しそうに笑うかしゆか。にかーっと笑って、裏面を見たりして「聴こう聴こう」と言った。

視聴機にディスクをセットして、僕たちは各々ヘッドフォンを装着した。

例の曲を選んだ。これで、僕とかしゆかは同じ音楽を聴くことになる。
そしてそのときチャンスが訪れるはずだった。

からくりの解明

僕の手が、かしゆかに触れたときに起こった電撃。

あの電撃は、僕はかしゆかサイドに備わった防御機構だと思った。
が・・・かしゆかはあの電撃に驚いていた。僕みたいな未熟者ならともかく、かしゆかほどのハイレベルで自分側のシステムの作動に驚くはずはない。

では何か。
簡単な話、かしゆかサイドでないのなら、僕サイドのシステムが起こした電撃だったのだ。
僕はかしゆかみたいに自分の全システム・アプリを把握しているわけではない。

かしゆかは、僕へのハッキングを試みたのだろう。
僕のシステムは侵入を許さなかった。そして弾いた。

かしゆかはハッキングに失敗した。もしかすると、彼女が驚いたのは電撃ではなく、失敗したことに対してだったかもしれない。

けれども彼女はとても優秀だ。
僕側のシステムが反発する前に一部のデータは入手できたはず。

そこにあったのだろう、イギーの残骸が。
彼女はハックには失敗したが、入手したデータで十分遊べると判断してイギーネタに食いついてきた。

それで残骸からの再構築を試みたのだ。

ミッションコンプ

そして、それは見事成功した…
僕は曲を思い出してアルバムにたどり着けた。

見事ミッションを完遂出来て、満足そうにほほえむかしゆか。
ヘッドホンからはガチャガチャと賑やかなサウンドが聞こえてきた。

Rolodex Propaganda
At the Drive-In
2000/09/12 ¥200

鶏の鳴き声みたいなボーカルのあとで、イギーパートが始まる。
しかし、これから先はかしゆかにも想定外だったろう。騙されたフリをし続けても良かったが、ちょっと意地悪がしたくなったのだ。

僕は、かしゆかへの接続を試みた。
同じ音楽を聴いて、同じデータを再構築している最中なのだ。直接的な接触が無くても、彼女の心に共振出来るはずだった。

通常の言語ほどのコミュニケーションは望むべくもないが…
僕は簡単なメッセージを送信した。

…hello kashiyuka_
thank you today_
im very happy with you_

ぎょっとしたようにかしゆかが驚くのが分かった。
次に、隣でにやついている僕と目が合った。

かしゆかはため息をついてヘッドフォンを外した。

ぷくっとふくれっ面をしたかと思うと、テヘッと舌を見せた。

許した(^-^)

at the drive in

そろそろ時間なので、僕たちはクルマを待っていた。
飛行機の時間にも申し分ない余裕があった。

僕はiPodに入れたat the drive inをスピーカーでかけていた。
かしゆかは流れゆくクルマを眺めながら、時々「あ、ビートルかわいい」とか言ったりしていた。

もはや僕たちにとって、沈黙は「耐える」かどうか考える問題では無くなっていた。
何か話したいことがあったタイミングに、好き勝手に喋ることが出来るムードになっていた。

クルマが来た。
ビートルよりは大分無骨だったが、力強そうなクルマだった。

「気をつけて」
僕はiPodの音楽を止めてかしゆかに手を振った。

かしゆかは何も言わずに微笑んで、クルマに乗り込んだ。
轟音と共にクルマは走り去り、あっという間に見えなくなった。

僕は今度はイヤホンを付けて音楽を再生した。
段々覚醒が近づいて来たようで世界がどんどん崩壊して無秩序になっていった。
ついに現実世界の布団の感触が僕の感覚を塗り替えていった。

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