偽Perfume

どうか渋谷で死なないで

夢日記ですが、最近読んだ『コンテクスト・オブ・ザ・デッド』のオープニング丸パクリってことを断っておきます。

かしゆかのススメ

渋谷の西武デパートの間を抜けた先のY字路を見下ろす席で、僕とかしゆかは食事をしていた。

のっちと遊ぶことが増えたとはいえ、僕にとっての本命はかしゆかに変わりなく。やはりかしゆかとの時間はとても尊いものに違いなかった。

不意にかしゆかは、最近僕がのっちとつるんでいる・・・というか、僕が一方的につるもうとしていることについて触れて言った。

「ほっとける勇気が無いと、のっちとは無理だと思う」

何のことかと思ったが、思い当たる節はあった。
ふとしたときに、今のっちは何をしてるんだろう?みたいなノリで連絡を取ろうとしたところで、のっちは相手にしてくれない。

返信がないことに一喜一憂していては、のっちとはつきあえない。

というのを既に何度か経験していたのだ。

そんな話を交えて確かにその通りだと僕は答えた。が、かしゆかはちょっと違うと言った。

のっちとゾンビ

「あ、噂をすれば」

かしゆかはY字路の交番を通り過ぎるのっちを指さした。

僕もそっちを見て、びっくり。

のっちは前方から向かってくるゾンビに驚いて後ずさりしているところだった。

「良かったね、交番の前で」

かしゆかは全く関心がなさそうに飲み物をすすったが、確かに交番から出て来た警察がゾンビを抑え込んでのっちは無事のようだった。

心配した通行人に声をかけられ、会釈するのっち。

僕はそれでも心配だったので、テーブルに多めの代金を残してかしゆかに「ちょっと行ってくる」と言った。

厳戒態勢の渋谷

道に出てみると人は渋谷にしては異常なほど少なくまばらだった。

のっちは既に見えなくなっていて、僕は近辺を走り回ってのっちを探した。

声を出すとゾンビをおびき寄せてしまうかもしれないし、いつゾンビに襲われるか分からないので慎重に動いた。

店はどこも開いたままになっていたが、下手に入ってしまったらゾンビに囲まれたとき逃げられそうにない。

そんな中、300円ショップの前を通りかかったところ、中から店員が「こっちは安全だ」と僕を招き入れてくれた。

動かなくなった自動ドアを開けてくれて、僕が入るとすぐにシャッターが閉められた。

「ちょうどシャッターを閉め切るところでキミを見つけたんだ。間に合ってよかった」

仲間

中に入ると10数人生き延びた人たちがいた。
その中にはのっちはいなかったし、のっちを見たという人もいなかった。

これでのっちと会える可能性は限りなく小さくなってしまった。

状況を確認したところ、センター街でゾンビがかなりの数出現して渋谷駅近辺全体が封鎖されたらしい。

今生存者の救出に自衛隊が出動していて、安全なところで待機しておくように言われているという。

ホントに待つことが最善なのだろうか・・・のっちは、かしゆかは、無事だろうか?

ケータイに連絡してみようかと思ったが、かしゆかはともかくのっちはすぐに確認しないだろうし、あまり意味がなさそうだった。

僕がそわそわしていると、小太りの中年男性がひそひそと話しかけてきた。

「出たいんでしょう?私もなんですよ」

Tower Records

彼は今日娘さんと待ち合わせで渋谷に来たのだという。

集合場所はタワレコ。

というのも、Perfumeの新曲の予約を入口でやっているからそれに行きたいと娘さんに言われたらしい。

それを聞いて僕は、かしゆかとのっちもきっとそこに向かうだろうと思った。
僕は彼に、一緒に行きたいと言った。

「裏の納品口にスズキの軽トラックが停めてあります、それを使って出ましょう」

彼は僕に、脱出までの安全確保の協力をして欲しいとのことだった。

脱出

武器になりそうなモノはほとんどなく、用具入れにあったモップを3本詰め込んだだけで僕たちはトラックに乗り込んだ。

「外に出てすぐゾンビはいないだろうし、とりあえず僕がシャッターをあけるから先に助手席に乗っててもらえるかい?」

僕は頷いてモップ片手にトラックの助手席に乗り込んだ。

おじさんはモップを片手に裏口のシャッターを開けにいった。

シャッターが開ききる前におじさんは周囲を警戒しながら先に外に首を出し、安全を確認出来たのかこちらに戻ってきて運転席に乗り込んだ。

「大丈夫そうだ、一気に行こう」

クルマを道路に出してから一応シャッターを下ろしておいた。

裏口の鍵もシャッターの鍵も開けっ放しだったが、元々僕らが来たときに開いていたのだからしょうがない。

「じゃ、急ごう」

タワレコまでは5分もかからず着くはずだった。

けれども僕は、途中LOFTの近くでのっちみたいな人影を見つけたので、そこで下ろしてもらうことにした。

「ぱっと見誰も居ないし、ここからならタワレコもそんなに遠くないから大丈夫です」

僕は礼を言って、トラックを降りた。

のっちらしき人影はLOFTの脇からパルコのある通りへと向かう上り坂を上っていったように見えた。

が、パルコの通りまで抜けてみてもそこには誰も居なかった。

惨劇

静まりかえった渋谷の街だったが、突然急ブレーキの音とともに激しい衝突音が鳴り響いた。

マルイの方だったから、さっき別れたばかりのおじさんのトラックの可能性が高い。

僕はマルイの方に向かって走ったが、途中で行く先の方から野太い悲鳴が聞こえてきて立ち止まった。

猛烈な吐き気がこみ上げてきた。さっきまで普通に話していたおじさんの絶叫に違いなかった。

助けに行かねば・・・と勇気を奮い立たせようとしたところ。

「来るな!!」

悲鳴の合間に、ハッキリとそう聞こえた。

それはきっと、ゾンビに対しての言葉に違いなかったのだが、僕に対して言っているという都合の良い解釈が真っ先に思い浮かんだ。

「ちくしょう」

最後にハッキリと聞き取れた言葉はそれだった。

僕は引き返して、のっちらしき人影を見かけたところに戻った。

逃亡

のっちが居るとして、この状況でタワレコを目指すだろうか。

少しでも安全なところを探してそこで待機しようとするのでは・・・

いや、そうとも限らない。

かしゆかやあ〜ちゃんと合流しようとするかもしれない。

僕は隠れるところが何も無い路上で立ち止まって、のっちの行動を考えていた。

そういえば、かしゆかはのっちの安全にえらい無関心だったのが気になった。

のっちのことがどうでもいいはずはない。なら?

何かが分かりかけたときに、引きずるような気配を感じて振り向くと、4ー5体のゾンビがこちらを認識した瞬間だった。

あんなの、モップじゃどうしようもないぞ・・・

僕は何とか心を落ち着けようと努めて周囲を見渡し、なるべく大通りを通って逃げようとしたが、何となくイヤな予感がしてすぐ脇にあった小道に逃げ込んだ。

なるべくゾンビたちを巻けるようにジグザグに曲がりながら進んだ。

曲がり角を曲がるたびに、前方にゾンビが出てこないかビクビクした。

後ろに居たゾンビを巻けたかも分からない状況での、前方のゾンビは恐ろしい。

最悪挟み撃ちだ。

もはや逃げ回ることよりも、戦って切り抜ける方法を考えた方がいいかもしれない・・・僕はモップよりはマシな武器になりそうなものを探しながら少し進むスピードを緩めた。

フラフラのっち

ゾンビの足音も聞こえなくなって、うまく逃げられたかと思いながら歩いていると、のっちの特徴的な後頭部が見えた気がして振り向くと、今度こそ正真正銘ののっちが路地の奥の方に向かっていくところだった。

のっち、と声をかけようと思ったものの、たったさっきゾンビと遭遇したことを思い出したので僕は声が出せなかった。

この距離だと結構大きな声を出さないことには気付いてもらえそうに無かった。

僕は小走りでのっちの後を追った。のっちはフラフラと歩いていたが時々スピードアップしていた。

途中、入口を破壊されたスポーツショップがあった。

ちょっと中を見ると、ユニフォームやスパイクとともに、バットがいくつか並んでいた。

リーチは短いが、モップの柄よりもかなり太く、遥かに武器として優れている気がした。

が、フラフラのっちがどんどん遠のくので、僕はスポーツショップには寄らずにのっちを追った。

のっちは何ともか弱く見えて、この渋谷を一人で歩かすには危なっかしくてすぐにそばに行かないといけない気がした。

襲撃

不安は的中した。しかも、ゾンビが現れたのは僕の方だった。

ゾンビは僕とのっちの間にあった曲がり角から現れ、僕の方に向かってきた。

僕は後ずさりして間合いをとって、モップで顔面をはたこうと考えた。

のっちはいつの間にか見えなくなっていた。

急がねば・・・僕は自分からゾンビに近づいて、モップの先端をゾンビの頭に振り下ろした。

が、モップは傷んでたのか、最初の一撃でもろくもへし折れてしまった。

幸いゾンビは衝撃でよろめいたので折れたモップの先で強く突くことで倒すことが出来た。

僕はゾンビの脇をすり抜けてのっちを追うことにしたが、もはや折れたモップは武器として期待出来そうに無かった。

さっきのスポーツショップは方向が違ったので、のっちを掴まえてから寄ることが出来るかどうか・・・

危機

のっちはどこにいったのだろう。

僕は右も左も分からない、渋谷の複雑な道の中を彷徨った。

ゾンビは恐ろしかったが、のっちがうろついていると分かった以上、どこかに隠れているわけにもいかない。

しかし僕は、せめてマッピングをしながら歩くべきだった。

T字路に出ようとしたら、左からゾンビが来ていたので後戻りをしてしまった。

しかしこの道は一本道で、しかもよりによって先ほど倒したゾンビがこっちに向かってきているところだったのだ。

完全に、挟み撃ち状態だった。もはやT字路のゾンビがいない右側に行くことは難しかった。

入れそうな店はないし、武器になりそうなものもない。

間をすり抜けられるほどの道幅があるかといえば、かなり微妙だった。

焦るな、と僕は自分の心臓を叩いた。

ここでやってはいけないのは、次の一手を誤ることだ。

どっちのゾンビをすり抜けて逃げる方が選択肢が増えるか、考えねば。

と、T字路を曲がってきたゾンビがこちらに気付いた。

後は待つほどに危険だ。早くどっちをすり抜けるか決めて、1対1が出来るうちに動かねばならない。

けれども動揺した僕は、どちらに進むべきか決めかねて無駄に時間を過ごしてしまった。
さっきモップで殴ったゾンビの方が弱ってそうだが、そっちの方向は逃げ道としてあまり好ましく思えなかった。

初動を逃した僕に、ゾンビたちは着実に近づいてきた。もう、逃げるにしても両方を相手しないわけにいかない。どっちかを攻撃している最中に、もう一方にやられてしまう。

あ、死ぬかも。

と思ったときに、フワッとかしゆかの香りがした気がして、頭の中にその姿が浮かんだ。

もうどん詰まりの最後の最後、かしゆかを思い出せたのはこの最悪の状況で唯一の救いだな、と思った。

lightning game

かしゆか万歳と叫びながら、どちらかのゾンビに一撃をお見舞いしてやろうと構えた瞬間、上空から黒い物体がふわりと舞い降りて、

僕がモップで攻撃していた方のゾンビのみぞおちに、素早く蹴りを突き入れて吹っ飛ばした。吹っ飛ばされたゾンビは一瞬起き上がろうとしたが、ダメージが大きかったらしくそのままばったりと倒れた。

もう一体のゾンビにはハイキックを顎に決めてのけぞらせ、正拳突きを心臓に打ち込みダウンさせた。

まさに瞬殺。lightning game。

「ゾンビだって人間がベースなんだから、急所は変わらない。怪我は?…なさそうだね」

そう言ってかしゆかは僕の手を引き、急いでその場をT字路の方へと抜けた。

のっちは・・・

「あんなところ絶対入っちゃだめでしょ」

かしゆかは僕と目を合わさなかった。怒ってる…僕は慌てて謝った。

「手間をとらせてしまってごめん、かしゆかが来てくれなかったらホントに危なかった」

「そんなことどうでもいい」

かしゆかは僕の謝罪を即答で遮った。

気まずい沈黙。

それで僕は、言い分けのように言った。

「その、のっちが見えたから・・・それも、なんかふらふらしてて危なそうだったから心配で。」

かしゆかは呆れたらしく、大きなため息をついて僕に言った。

「のっちなら、あそこだけど?」

かしゆかの指さす先に、確かにのっちはいた。

背を向けたのっちと僕らの間には、のっちがなぎ倒した夥しい数のゾンビが横たわっていた。

かしゆかに気付いたのっちはこちらを振り向き、はにかみ笑いで言った。

「ごめん、道に迷った」

かしゆかは微笑んで、「だと思った」と答えた。

よく見ると、のっちは両手の拳に布をぐるぐるに巻き付けていた。

ああ。そうだよね。

そう。すっかり忘れていた。

のっちって、流星拳の使い手で一人で数百人の兵力とか言われてるんだった。

ちゃんと拳をガードして、タワレコのイベントにも支障ないよう配慮も出来ていた。

ああ、僕は勝手に飛び出していったけど、のっちにとってゾンビに囲まれるなんてことは朝飯前の環境だったわけだ。かしゆかはそれが分かっていたからまったく動じないでいた。僕は、助けに行くと言いながら何も分からず、結果かしゆかの足を引っ張ってしまった。

かしゆかはのっちを労うように腕にタッチして言った。

「のっち、タワレコはあっち。私もすぐ行くから先に行ってて」

かしゆかとのっちは、またね、と手を振り合った。

残ったかしゆかはのっちとはちがう方向に歩き出して僕に言った。

「じきに自衛隊が制圧するけど、それまでは危ないからアップルストアに隠れてて。今から連れてく」

僕はかしゆかの後を追った。かじられたリンゴのロゴがライトアップされた建物が見えてきた。

かしゆかは入り口を警備しているスタッフに一言二言告げて、僕に入店を促して言った。

「入れてくれるって。あと、タワレコのイベントは制圧後に変更になったから、それまでここでおとなしくしててね」

僕は深く頭を下げて、ストア内に入った。入った途端、電磁的なバリアが張られたのが分かった。

かしゆかはそのまま去ってしまいそうだったが、ふと立ち止まってこちらを向いて言った。

「ね、わかったでしょ?」

僕は何のことを言われているか分からずに、えっ?・・と微妙な反応しか出来なかった。

かしゆかは、やれやれと呆れたポーズをして言った。

「ほっとける勇気が無いと、のっちとは無理だと思う」

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