僕は小銭を握りしめサンクスへと向かった。
ニート in コンビニ
その当時僕は無職。
弟は学校に、両親は仕事で出かけてて家には僕と飼い犬だけ。
僕はミンティアかなにかを買いに行ったのだと思う・・
けれどもいつも通りとりあえずは成人向けコーナーで立ち読みをする。
立ち読みに飽きたらおやつをざっと見た。
立ち読みの無駄さには気づいてなかった僕でもおやつを豪華にすることの虚無感には気づいていて、結局ミンティアだけ手にとってレジに並んだ。
レジには同年代くらいの若い男性従業員が一人立っていて、手際悪そうにレジうちをしていた。
美女 at レジ
僕の前に並んでいたのは、すらっとした長髪の女性。
カジュアルな格好だったのでオフに買い物に来た感じだろうか。
髪がムラ無く染まっていて、所々透き通った色をした髪がキラキラ光ってた。
後ろに立っているだけで甘い匂いが漂ってきたし、その挙動一つ一つがいちいち可愛らしかった。
その女性をボーッと眺めてると、いつの間にかレジは進んでその女性の番になった。
レジの男は相変わらず拙い動作で、もたもたしていた。
目が泳いでいて安定していないし、言葉が上っ面な感じがした。
無職で職歴すら皆無だった自分であったが、アルバイトの彼にいらだって見下していた。
僕は自分の後ろをちらっと見て、いらだつ他の客が後ろに結構並んでしまっていることに気づいた。
ああ、この威圧的な空気でレジの彼は余計焦ってしまっているに違いない、可哀想に。
とは思わずにざまーみろ程度にほくそ笑んでいた。
と、そのとき。
軽やかな鈴みたいな愛らしい声が響いた。
前にいる可愛いお姉さんだ。
よくあることだが、見た目が可愛い人は声も可愛いことが多い。
彼女もそのようだった。
女性はカウンター越しにレジをのぞき込むような姿勢で、
「ココ押せば大丈夫ですよ」
と、へっぽこバイトくんにレジの操作を教えていた。
レジの彼は、突如間近に寄ってきた美人に喜びを隠さずにやけていた。
(ただし、それは僕の羨望が見せた誇張かもしれない)
決意の夜
「私もレジやってたんですよ」
女性はレジの男にそう告げると、心地よい微笑みを振りまいて去っていった。
なんて素敵な交流なんだろう・・・・
僕は、心から羨ましかった。
なんてことないやりとりに過ぎないんだろうけど、あんな風なやりとりがあるのなら、きつくて搾取されるような環境であっても頑張れるかもしれない。
翻って自分。
レジどころか仕事自体したこと無し。
女性相手に限らず会話自体ほとんどしない日々。
社会で必要とされる人間になりたい。
社会の役に立って、社会と繋がりたい。
帰宅してすぐにミンティアをそこらに放って、僕は机に突っ伏した。
数年後、某ドラッグストア
僕は今、ドラッグストアでバイトをしています。
ティッシュにお米、牛乳等々、よく売れる商品は常に在庫に注意して品出しします。
品出ししているとき以外は基本的にレジに立っています。
決して楽な仕事ではないし、給料だってそんなにいいわけではありません。
でも、今の仕事には充実感をもってます。
今や僕も
先週のことです。
夜の時間帯、会社帰りらしきスーツ姿の女性が来店しました。
多分僕より年下ですが、そのきびきびした動きからは若さだけでなく日頃の頑張りが読み取れました。
そんな姿を見ると僕は励まされてる気分になって嬉しくなります。
「すいませーん!」
きょろきょろと売り場を見渡しながら、その女性は僕に声をかけてきました。
僕はいつも通り、お客様どなたに対してもしてるようにはっきりした大きな声で「はい!」と言って彼女のところにかけつけました。
女性はきょろきょろしたまま、聞き取りやすい声で言いました。
「この前レジ前にあった酢コンブ?100円くらいで、こんなパックに入ったの・・あれ、もう売り切れたんですか?」
僕は頭をフル回転させながら答えます。
「酢コンブ?・・あ、塩昆布のことですか?98円の」
「そう!それ!」
「こちらにございます」
女性を誘導するとき、ふっと青リンゴみたいな爽やかな匂いがしました。
あのときコンビニのレジで出逢った匂いとは違いましたが、とても心地よいものでした。
売り場にたどり着くと、女性は喜んでくれました。
「これこれ!これは買いだめしないとね~」
なんて言いながら、きらっきらした笑顔を見せてくれました。
「おいしいですよね。従業員の間でも人気なんですよ」
「そうなんだ!おいしいですよねー」
「はい。ここの売り場でしたらいつでも置いてます。レジ前は置いてたり置いてなかったりするので、良かったら今度こちらもご覧になってみて下さい」
「はーい、どうも~」
結び
以上、なんてこと無いやりとりに過ぎません。
が、僕はこのように社会との繋がりを感じて、楽しく充実した日々を送っています。
とても幸せです。