ポーの代表的物語詩「大鴉」・・・それをホネの髄までしゃぶらせてくれる良書に出会いました(^-^)おすすめっていうか、何も考えずに買っちゃって良いレベル!
大鴉
これまで簡単に読めるポーの短編をいくつか紹介してきましたが、今回の詩「大鴉」も無料で読めます。
青空文庫には見当たりませんが、ググって見れば訳詩がいくつもひっかかります。
それでざっと読んでみると、何とも不気味なムードの漂う詩だなという印象です。
ところどころで韻を踏んでいたり、nevermoreというカラスの言葉がいろんな意味に変幻していく過程が主人公の焦りと狂気への道のりと連動しているようで、不思議で不気味な詩だと感じました。
が、普段詩なんてものを読むことのないヤボな僕からすると、これは短編に比べればオマケみたいなものに過ぎないと思いました。
そう、今日ご紹介する本で、「大鴉」の真の姿を見るまでは。
加島祥造セレクション
これです。
1500円以上と決して安くはありませんが、中身のクオリティを考えれば十分元はとれるかと思います。
表紙も綺麗ですが中もこんな感じで凝ってます。
すいません(^-^;
文章が見えたらもったいないと思ったので、こんなカットしか見せられないのです。
なんと出版は2009年とかなり新しいものです。
加島さんって誰だか知りませんでしたが、詩人みたいです。本物のプロが論じているという点でグーグル検索に引っかかるものとは一線を画しています。
圧倒的に読みやすくリズミカルな訳詩
まずは「大鴉」の加島訳を読みましょう。
どの訳よりも、圧倒的に読みやすいです。
読みやすいというのは声に出して滑らかなだけでなく、読んだ先からするりと意味が分かるようになっているということです。
まるで童話を読むかのようななめらかな読み心地です。
解説「ロマンティシズムの再生」
そして続いて、加島さんによる詩の解説が述べられます。
タイトルにあるようにテーマはロマンティシズムです。
ロマンティシズムを軸として、翻訳作業でこだわったところ、譲れないところなどだけでなく、ポーの狙いやこの詩が持つ魅力の研究がかなり突っ込んで行われていてかなりのボリューム。
そして読み応えです。
この解説により、冒頭の加島訳「大鴉」がなおのこと輝きを増します。
僕の中では完全に「大鴉」は生まれ変わってしまいました。
短編には劣るとか言っちゃってすんません。
なんと愚かなことを言ってしまったことか。
「大鴉」はポーが作った全創作の中でも筆頭に来るに違いないとんでもない傑作でした。
何より僕のなかでの「大鴉」を大化けさせたのは、カラスの解説でした。
大鴉はカーカー啼かない
日本人にとって、カラスはかなり馴染みのある鳥です。
なので、大鴉というタイトルや詩のなかでのカラスの登場を見たら、よく見るあのカラスを思い浮かべてしまいがちです。
しかし加島さんはハッキリと述べます。
この詩の鴉(raven)は、私たちのなじんでいる烏(crow)とはかなり違う。
大鴉、という、烏とは似てるけど全然違う鳥がいるそうです。
で、この大鴉は鳴き声がそもそも普通の烏と違っていて、かなり不気味。
eNature.comというところで鳴き声を見つけたので、ちょっと聞いてみてください。
怖っ(^-^;かなり低いです。
鳥っていうか化け物の一種みたいな不気味な鳴き声です。
ちなみに慣れしたんだ烏の鳴き声はこちら。
全然違いますね。
- 参照サイト:American Crow
この鳴き声の違いに気づけただけでも、大分詩の印象は変わってきます。
が、もっと衝撃的な解説が出てきます。
鳥の嘴
それは次の様な、サラッとした指摘です。
鳥の嘴はnevermoreのうちのV音(唇音)ができないから、「ネワーモー」といった叫びなのだろう。それを陰気で恐ろしい声で甲高く叫ぶ。
僕にとって、「カラスが喋る」という現象は実はそんなにリアルに想像出来るものではなく、知らず知らずアニメ的に人間の声優が代わりに喋る光景を考えてしまっていました。
けれどもこれを読んだ瞬間に、詩「大鴉」は完全に生きた光景として目前に再現されました。
ホントにカラスが喋ったらどうなるかを解説してもらったおかげで、Nevermoreと喋るカラス(それも、上述したようなもの凄く不気味な怪物である大鴉)の声が聞こえてきたのです。
ドアの上にある胸像に乗っかった無表情な大鴉が、目の前で本当に喋り始めました。
Nevermore
Nevermore
大鴉の声だけでなく、夜の闇や静けさ、よどんだ空気、愛する人を失った胸をつく哀しみまでもが、ありありと再現されていくのです。
それで漸く気付きました、「大鴉」を読むことは、とんでもない体験をするに等しいことだったのです。
身の毛もよだつ、とはこのことか…怖い。
恐怖作家ポーの真髄を味わえるのは、どんな短編よりもこの詩一編に勝ることはないと思います。
言葉一つでこれだけ世界は変わるなんて、恐ろしいくらいにすごすぎる。