中枢神経系でオン・オフを司る因子、グルタミン酸とGABAは構造上官能基一個があるかないかしか違わないことをご存じでしょうか?!軽く衝撃を受ける生化学ネタをご紹介します。
中枢のオン:グルタミン酸
中枢神経系ではグルタミン酸は神経の興奮を起こす伝達物質として機能しています。
例を一つあげると、ケタミンという全身麻酔の薬は脳内でグルタミン酸をブロックすることで意識消失や痛み伝達遮断をします。
また、記憶・学習などの高次機能に関してもどうやら関わりを持っているようです。
そんなグルタミン酸ですが、必須アミノ酸の一つで構造的には非常に単純です。
炭素数5のジカルボン酸で2位にアミノ基が付いているだけです。
プロパンの両端にカルボキシ基が付いて、片方の末端にはアミノ基も付いている、といった構造です。
さて、このグルタミン酸、中枢神経系では2経路から供給されます。
一つは、グルタミンの脱アミノ化で、もう一つはαーケトグルタル酸の還元です。
αーケトグルタル酸???(^-^;
αーケトグルタル酸は生化学では非常にメジャーな物質です。
何せ、最も基本的な代謝経路であるクエン酸回路を構成する物質の一つだからです(高校生物学でもちらっと出てきてました)。
構造的にはグルタミン酸のアミノ基がケトンになっているだけなので恐るるにたりません。
クエン酸回路はミトコンドリアさえ持っていたらどの細胞にもありますので、αーケトグルタル酸は利用しやすい物資と考えられます。
なので、そのような物質を原料とするグルタミン酸を興奮に利用しているのは非常に合理的だと思います。
中枢のオフ:GABA
一方、神経の興奮を抑制させ鎮静させる機能はGABAという物質が媒介しています。
例えば、睡眠薬でよくあるベンゾジアゼピン系の薬理作用は、中枢神経系でのGABAの作用を強めることです。
レンドルミン、ハルシオン、エバミールなど、大体がこの作用により不眠を改善します。
また、中枢神経のショートとされる「てんかん」の治療にもこのベンゾジアゼピンは使われますし、鎮静剤としても適応がありますのでGABAが如何に中枢の抑制に重要な役割を担っているかがうかがえるかと思います。
もっと極端な例で、全身麻酔薬プロポフォール(マイケルジャクソンが自殺に使ったアレです)も、作用点はGABAの受容体です。
このGABAですが、グルタミン酸と違って必須アミノ酸ではありません。
ドラッグストアでバイトしている時に聞いてみたところ、構造を認識していない登録販売、薬剤師の人も数名いました(^-^;。
が、このブログの読者の方々は、たぶん今日以降絶対忘れないと思います。
GABAはγーアミノ酪酸の略ですが、そんなことよりも見れば一発の衝撃があるからです。
なんと、グルタミン酸のアミノ基側にあったカルボキシ基が抜けているだけ、です。
実際生体内ではグルタミン酸からGABAへの変換は普通に行われています。
グルタミン酸がクエン酸回路を利用してわりと簡単に得られることから、GABAも中枢では比較的利用しやすい物資だと思われます。
こんな簡単な構造の変換で、真逆の機能発現を可能にしているって、すごく衝撃的ではありませんか?!!
神の見えざる手
中枢神経系はすぐにオンとオフを切り替えられるように、このように伝達物質の構造をそっくりにしているのでしょうか。
何億年もの進化の末にたどり着いたはずの現在のこの形態に、何の意味も無いということはあり得ません。
このように化学構造を見ながら考えると、神の見えざる手が垣間見えて恐ろしくなることがあります(^-^;
とりあえず、これでもうGABAの構造が分からないなんてことは一生ありませんよね?!
グルタミン酸と1箇所しか違わないのですからこんなの暗記するまでもなく常識として即座に記憶に定着しちゃうはずです。