これだけ魅力的な素材を並べておいて…なぜそうした?!
魅力的素材
読み始めてすぐ気づくのが、とても魅力的な設定の数々。
ヘラジカ猟というロマンティックで非日常的行為が語られます。
ヘラジカ?
こんな生き物、少なくとも日本ではそんなにメジャーではないw
そしてでかい。
体長240-310cm。肩高140-230cm。体重200-825kg
怖い(´;ω;`)
そして不思議なチカラを持ってることも。
唾液には植物の成長を促す成分が含まれている。
森の神様的な?
さらには、強い。
ヒグマの成獣がヘラジカの成獣との戦闘で敗北(死亡)することが知られている。
ヒグマ倒すとか…バケモンを上回るバケモン。
そんな、ロマンの塊である巨大動物ヘラジカに、今年は異変があるというところから物語は始まります。
どうやら臆病になっているらしい…
これは…バケモンを上回るバケモンであるヘラジカを、さらに大きく上回る?ような大怪物の存在が匂わされて、オープニングとしては非常に良いムード。
ちなみに、場所はカナダのオンタリオ州にあるという原始林の奥深く。
アマゾンの密林とはまた一味違った、凍った感じがあって未体験ゾーン感満載。
大自然の中で、無力な人間みたいなのはサバイバルものの定番ではあるものの、エンターテイメントとしての準備は十分に整ったといえます。
さらには、登場人物の振り分けも面白い。
人間の心を扱う専門家キャスカート博士、神学生で国教会に務めることが決まっているシンプソン、現地の事情に通じた案内人ハンクとデファーゴ、そして古の習慣を現代に引き継いでいるネイティブアメリカンの老人プンク。
現代文明と大自然が対立して、それぞれを代表するキャラクターを配した構成になっています。
そしてこれら魅惑の素材の上に乗っかるのが、タイトルにもある謎の言葉「ウェンディゴ」。
ウェンディゴって、何?(^-^;
ウェンディゴ
Wikipedia見るとこんな解説。
非常に抜け目が無く、人に姿を見せない術を心得ている。1人で旅をする旅人の背後に忍び寄り、気配だけを悟らせるが、どれだけすばやく振り向いてもその姿を見ることはできない。それが何日かつづくと、ウェンディゴはかすかな、はっきりとは聞こえない声で話し掛けてくるようになる。やがて、旅人がその不気味さに耐え切れなくなるまでそれは続くことになる。かなり陰湿ないやがらせといえるが、実際に危害を加えてくることはない。
ウェンディゴ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
これは…
「不安」の具現化というやつでは。
似たような妖怪が日本にもいます。
いわゆる「ぶるぶる」。
恐怖を感じた人間の首筋がぞっとするのは、この震々が人間の襟元に取り憑くため
震々
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
水木しげるの本にも出てきたように思います。
このように現代的な解釈では人間の心理内部に存在していると思われるのがウェンディゴということでしょう。
しかしストーリー上は、ウェンディゴは人間内部にではなく現実に実在するという流れになるはずです。
いかにして、リアリティをもたせられるか。
また、必然性をもたせられるか。
お手並み拝見と行こうではありませんか!(この時点では興奮マックスw)
躓きと激冷め
せっかく盛り上げられるだけ盛り上げといて…肝心の冒険が始まってからは次々にズッコケさせられるような事態が連発します。
まず、いきなりメンバーが3分割されてしまうところ。
そしてそのうちの1グループのみの動向を追う形になり、残り2グループというか二人と一人は蚊帳の外状態。
せっかくの周到で意味ありげな人員配置となっていたのに、もったいない。
そして、原始林に到達する前に湖をカヌーで渡るというアドベンチャーがあるのですが…
分割後のメインメンバーの一人、ガイドのデファーゴが大自然に適応しすぎ問題が勃発w
あまりにパーフェクトに適応してしまっているために、ホントは怖いはずの湖も、その先の原始林も、ほとんど困難なくクリア。
生存の危機にさらされることは皆無と言ってよく、読んでるこっちからすると文明圏にいるのとあんまり変わらないw
原始林は広大だみたいな描写もありますが、あんまりその広さは描けていません。
迷うけど、戻れたしwこれなら和歌山県の航空写真見るほうがもっとスリリングかも(^-^;
具体的ページは忘れましたが、早々にあるキャラの後日談が出てきてしまう(つまりは無事生きて帰れることが判明する)のも、緊張感激減となってしまってあまりにも不用意すぎます。
さらには…
ウェンディゴ実在性とその意味
ウェンディゴの実在性という最重要部分が、詰めきれていない。これは冷める。
原始林での不思議な体験から、ウェンディゴは確かにいたということに作者はしたいのでしょうけど、リアリティは非常に疑わしい。狂人の妄想と言われたほうが筋が通りそうな…
なんとか協力的な読者になろうとしてみたところで、ではウェンディゴが実在したところでどんな意味が?という部分になると更に物足りないという悲しい事態です。
作者はその意義を、太古の記憶とつながる的な解釈でまとめていますが、正直良くわかりませんでした。
似たようなテーマですごかった事例を挙げて締めます。
漫画版デビルマン、欲望と恐怖の解釈
漫画版デビルマンで、人間の際限ない欲望は太古に存在していたデーモンへの恐怖と対抗心が根源にある、みたいな本能ほじくるような提示は正直すごかった。
たぶん、『ウェンディゴ』もこういうことが言いたかったんじゃないかと思います。
しかしそれなら、まずは大自然の中での無力な人間を文明寄りと自然と共存側両方の登場人物を使って描いてみたらよかったのに、と思いました。
ヘラジカとウェンディゴを知れたのは良かったです。そこは感謝してます(^-^;
以上。